「学校にまでこんなチラシを配ろうとするなんて……。“ゆるキャラ”のトリチウムで大炎上したことを忘れたのでしょうか。このチラシには〈知ることが大事〉と書かれているけど、安全のアピールばかり。トリチウムは、ここまで“安全”と言い切れるものではないはず。こんな不確かな情報を子どもたちに広めていいのでしょうか?」
そう憤るのは、福島県いわき市在住で中学2年生の子どもをもつYさんだ。Yさんが言う“チラシ”とは、政府が2023年度から海に流そうとしている放射性物質トリチウムを含む“ALPS処理水”の「安全性」について書かれたもので、昨年12月から全国の公立小中高に配られ、問題になっている。
福島県から東京都武蔵野市に避難しているOさんも、子どもが通う小学校で3月初めに配られた、とこう続ける。
「廃炉にあたる作業員の人手も足りないと聞いています。こうやって子どもたちに安心感を与えて、大人になったとき廃炉作業に駆り出したいのでは、と勘ぐってしまいます」
■消されたトリチウムの“ゆるキャラ”
チラシは2種類ある。ひとつは、資源エネルギー庁が作成した「復興のあと押しはまず知ることから」と書かれた小学生向けのチラシ。もうひとつは、復興庁が作成した「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」と書かれた中高生向けのチラシだ。
このうち復興庁が作成したチラシは、Yさんが指摘するように大炎上した過去がある。政府が、ALPS処理水の海洋放出を決定した2021年4月12日の翌日、同庁が「安全アピール」をするためか、動画とともに、このチラシをホームページにアップした。
ところが、トリチウムを、まるで“ゆるキャラ”のように描いていたため、不謹慎だと非難を浴び、すぐに削除したのだ。そのあと、ゆるキャラを「T」マークに変えてリニューアルしたのが、今回、学校に配布されたチラシというわけだ。
2種類のチラシには、いずれも「トリチウムの健康への影響は心配ありません」「人間が食べたり、飲んだりしても健康に問題のない安全な状態で処分されます」などと書かれ“安全”がアピールされている。しかし、岩手・宮城・福島などの被災3県の学校では、このチラシが再び物議を醸し、配布を見合わせているところも少なくないという。その理由について、日本共産党・福島県議会議員の神山悦子さんは、こう指摘する。
「国や東電は、〈関係者の理解なしにいかなる処分も行わない〉と言っていたのに、その約束を反故にして海洋放出を決めました。ですから今でも反対している人は多く、非常にデリケートな問題なんです。にもかかわらず、教育委員会になんの説明もなく、いきなり学校にチラシを送ってきた。いままでこんなことはなかったそうです」
チラシの中身も大問題だという。
「『取り除けるものは徹底的に取り除き、大幅に薄めてから海に流します』などと安全をアピールしていますが、ALPS処理水にはトリチウム以外の放射性物質が62種類と炭素14も含まれていて、本当に取り切れるかどうかもわかりません。そもそも処理水の総量が多いのに、うすめたら安全というのも疑問があります」