■「パワハラになる可能性は相当高い」
一見すると、わきあいあいと楽しそうに見える「新入社員ダンス」。しかし、その運用の仕方次第では、パワーハラスメントに発展する可能性がないだろうか。そこで本誌は、労働問題に詳しい日本労働弁護団常任幹事の嶋﨑量弁護士に話を聞いた(以下、カッコ内は嶋﨑弁護士)。
「例えば、ダンスが好きで自発的にダンス動画に参加するのであれば、パワハラにはならないでしょう。ですが、断りづらいといった理由でしぶしぶ参加するとなれば、パワハラになる可能性は相当高く、業務命令として許されないでしょう」
具体的にどのような側面がパワハラとみなされるのか、嶋﨑弁護士は次のように解説する。
「上司が部下の新入社員に、ダンス動画への参加を命令したことを前提とすれば、職場の優越的な関係を利用したものになり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものではないか、労働者の就業環境が害されるものでないかが問われます」
嶋﨑弁護士は「新入社員のダンス動画は会社の宣伝にもなっていますので、ある程度の必要性はあるかもしれません」と言及する一方で、こう指摘する。
「人前で踊ることやその動画が広く発信されることに対して、『恥ずかしい』『嫌だ』といった羞恥心を覚える人もいます」
さらに、嶋﨑弁護士はこう続ける。
「まして踊っている姿のみならず『顔出し』の動画をSNS上で全世界に発信されると、社外にもプライバシーが晒され、その記録も将来的に残ります。いわゆるデジタルタトゥーです。従業員でも会社を離れた私生活、もしくは退職後も含めて情報が拡がり残ってしまうので相当では無く、労働者の就業環境を大きく害すると判断される可能性は高いでしょう。後で気が変わり嫌になっても、1度拡散されたら回収もできません。一時的に宴会芸として強いられること以上に問題があるのです」