安藤親子(右・一成さん、左・美紀さん)と聴導犬 画像を見る

第94回アカデミー賞で、作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門を受賞した『コーダ あいのうた』(以下、『コーダ』)。

 

タイトルのコーダとは、“Children of Deaf Adults”の頭文字で、聴覚障がいの親を持つ子どものこと。映画は両親と兄の4人家族の中でただ一人だけ耳が聞こえる主人公の少女が、通訳として家族を支えながら歌うことへの夢を追う、コーダとしての葛藤を描いた物語だ。

 

じつは、日本にも映画と似た境遇の家族がいる。手話シンガーソングライターとして活動する安藤一成さん(27)の母、美紀さんは重度の聴覚障がい者だ。

 

「息子の声は聞こえません。でも、歌っている姿はとても輝いています」

 

そう語る美紀さんは、口の形を見て、相手が話していることを読み取ったり、言葉を話すことはできるが、生まれつき耳は全く聞こえない。

 

しかし、一成さんが歌に親しむようになったのは、耳が聞こえない美紀さんからのあるお願いがきっかけだったという。

 

「幼稚園の帰り道、自転車のうしろに一成を乗せると、私からは口の動きが見えず、おしゃべりをすることができません。話を聞いてあげられず申し訳ないと思って、『歌を歌ってほしい』とお願いしたんです。

 

一成は喜んで、毎日歌うようになりました。歌が聞こえなくても、歌わせることが、私にできることだったんです。聞こえなくても、私のために一生懸命に歌ってくれていると思うと、心が暖かくなって、仕事の疲れが取れていくのを感じました」(美紀さん)

 

母の背中を見ながら、全力で歌っていたことを一成さんも記憶しているという。そして、一成さんはどんどん歌うことが好きになっていった。

 

美紀さんが、一成さんにとっての歌の大切さを感じた出来事がある。

 

「一成は小学校3年生から歌のスクールに通っていたのですが、中学2年生のときそのスクールが閉校してしまったんです。スクールにいかなくなってから、一成は暗くてイライラするようになりました。やっぱりこの子は歌がないと、生きた心地がないのかなと思うようになったんです」

 

一成さんにとって、歌がどれほど大切かを実感した美紀さんは通っていたスクールの恩師を探しだし、レッスンを再開してもらえるように頼み込んだ。

 

「私は音楽のことはよくわからないんですけど、やっぱり一成には音楽が必要なのかなあと。そこで、この子には音楽の中で生きる環境を与えたほうがいいと思ったんです」

 

一成さんが、歌を仕事にしたいと大阪芸術大学で歌を学ぶ演奏学科に進んだときも、「頑張って」と背中を押した。

 

「私の行きたかった大学に進学してくれたので、それが嬉しくて。私は絵やイラストを描くので、美術学部で学びたかったんですが、母に反対されて叶いませんでした」(美紀さん)

 

一成さんは、母にも歌を届けたいと思う気持ちで、いまは手話をつけて歌うようになった。

 

「一成には、私の持っていない音楽を作る力があります。これからも色々な歌を歌い、多くの人を感動させてほしいと思っています」

 

【後編】聴覚障がいの母が子育てで抱いた不安「赤ちゃんが泣いても気づけない」へ続く

出典元:

WEB女性自身

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