■毎日同じ時間に通う常連さんは、顔色を見ただけで体調までわかる
「私のうちはどこでしょう?」
あるとき、暖簾をくぐるなり、高齢の女性が、カウンター越しに問いかけてきた。彩華さんは、しばらく話し相手になって、それから近くのBIG BOX改札口横の交番へ同行した。
「きっと、認知症だったんですね。立ち食いのうちの店は、いつも引き戸が開いてるから、入りやすかったのかな。
早朝の酔っぱらいのケンカも、何度止めたかしら。タトゥーを自慢する10代の男のコに、『親からもらった健康な体に感謝して』と諭したこともありました。
10年くらい前に、やっぱり暖簾越しに、タレントの赤井英和さんが駅前に立っているのが見えたんです。私が“どうぞどうぞ”って手招きしたら(笑)、本当に横断歩道を渡ってきてくれて。聞けば大の立ち食いそばファンだそうで、その後も何度かみえました」
学生時代からサラリーマンになっても通い続け、さらに結婚して子供ができて、その子がまた早稲田大に入って来店するという、長い付き合いの常連客も多い。
「なかには、父の寿司屋のころから3代にわたって通ってくれている人もいます。毎日、同じ時間に、同じそばを食べ続ける人も多くて。そんな常連さんは、顔色を見ただけで体調までわかるんです」
ときには、こんな会話も。
「お客さん、最近、ちょっと疲れがたまってるんじゃない。今日はそば食べたら、早引きさせてもらって家で寝てなよ」
「おばちゃんには噓をつけないね。ここんところ残業続きでさ」
彩華さんは、言う。
「これぞ、うちみたいな個人経営の立ち食いそば屋だからこその会話だと思うんです」
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