■「この馬場の駅前で50年も前からやってるわよ!」と言い返せないのは寂しい
病気療養でいったんは店を休んでいた彩華さんだが、7月に入り“最後のお務め”で、また吉田屋のカウンターに復帰した。
「おばちゃん、久しぶり」
暖簾をくぐってやって来たのは、学生時代からいつも天ぷらそばを食べていた常連客だった。
「あら、久しぶり。ずいぶん顔を見ないから、転勤でもしたのかねえ、なんて話してたのよ」
「そのとおり。九州に転勤だったんだよ。でも3年ぶりに、おばちゃんのそばを食べて、やっと東京に戻ってきた気がしたよ。やっぱりそばは関東風に限るね。それにしても、おばちゃん、まだ、やってたんだね」
彩華さんは、
「“まだやってたんだ”という冗談半分の言葉にも、以前なら『うちはこの馬場の駅前で、50年も前からずっとやってるわよ!』と元気に言い返せたのに、もう、そのセリフは言えないんですよね。それを思うと、やっぱり寂しいわね」
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