■百合子さまの傍らに今でも象の置物が
にしゃんたさんはスリランカ出身の“先輩”アヌーラが今でも心の支えだという。
「僕も18歳で日本にきて、35年になりますが、アヌーラも頑張っていると思えば、なんだか元気が出てくるんです。この前はベランダの植木鉢の土を処分しようと思って役所に聞いたら、燃えるゴミだといわれたんです。土がゴミなんてスリランカでは信じられないと思ったとき、ふとアヌーラはスリランカに帰りたいと思わないのかなと考えてしまったんです。でも、アヌーラにとっては、たくさんの人たちに囲まれている今が幸せなのかもしれません」
ウィッキーさんは、85歳になっても現役の英会話講師として、週7日、都内各所のカルチャースクールに電車で通っている。
「スリランカでは、ゾウの頭をしたガネーシャという勉強の神様がいます。私が日本にいるのもガネーシャに助けられたからと思っているから、息子に、その神様の名前をつけました。私にとってゾウは特別な存在です。アヌーラが、今、日本で多くの子どもたちを笑顔にしていることを誇りに思います。アヌーラは、もっと、もっと生き続けてほしいですね」
今年6月4日、99歳の誕生日を迎えた三笠宮妃百合子さま。誕生日に合わせて映像が公開されたが、その傍らにゾウの置物があった。66年前にスリランカを訪問されたときの記念品だという。
小田部さんが語る。
「お二人にとって大歓迎を受けた66年前のスリランカ訪問は、忘れられない思い出でしょう。’07年に、多摩動物公園でアヌーラの来日50年を祝う会がひらかれ、当時91歳の三笠宮さまと百合子さまご夫妻が出席されましたが、お二人が50年を経て顔を合わせたアヌーラを優しいまなざしで眺めていたのが印象的でした。
長引くコロナ禍やウクライナへのロシアの侵攻など、不穏な空気が流れ、国民の多くが不安を抱えているなか、ゾウの置物を置いていることから、三笠宮ご夫妻の平和を願う気持ちが伝わってくるようです」
アヌーラがいる屋外放飼場の近くで、夕方になると黄色い可憐な花を咲かせるメマツヨイグサが、心地よい風に揺れている。そろそろゾウ舎に戻るころだーー。