白内障で目が見えない象のアヌーラ 体調が悪い時は仲間の象に支えられた
画像を見る 鼻を頼りに暮らすアヌーラ

 

食欲は旺盛だが、動物園にいるアジアゾウの寿命は60年ほどといわれている。アヌーラだって、いつなにが起こるかわからない。飼育係の田口さんも、やきもきすることが少なくない。

 

「アヌーラは高齢ということもあり、ほかのゾウとちがって神々しいというか、なにか特別な空気感があります。なにを考えているのかわからないこともあります。いつも朝出社してゾウ舎に行くと、アヌーラはたいてい起き上がって、外に出たいようなそぶりを見せます。ところが、あるとき声をかけてもゾウ舎の電気をつけても横になったまま。『うわ~、これはいっちゃったかな』と思ったら熟睡していただけ。あのときはすごく心配しました」

 

暑さをしのぐように、大きな耳をパタパタと動かすアヌーラじいさんが、いたずらっ子のように見えた。

 

新しい施設や飼育方法に、高齢でしかも目が見えないアヌーラがなじめたのだろうか?

 

「最初は、ゾウ舎から屋外放飼場まで誘導しようとしても、進行方向に迷うことがありました。りんごをポトンと落として、その音と振動で方向を教えたら、アヌーラは短期間で覚えていました。それにしてもなにも見えない世界に飛び込んでいくなんて、自分はできませんからね。あの年齢にして、果敢にも長い鼻を頼りに一生懸命、新しいところに踏み出したんですよね」(田口さん)

 

■年老いたアヌーラから学ぶこと

 

89歳になるわしおさんは、今、夫と息子が眠る伊豆の海が見渡せる老人ホームで暮らしている。4年前には、アヌーラに会いたくて多摩動物公園に行ったという。

 

「鼻を杖代わりにして歩いているというから励まそうと思って。でも元気に歩いている姿を見て私のほうが元気づけられました。本当は野生にいなければいけない動物を閉じ込めているわけですから動物園は人間のエゴなのかもしれません。だからこそ、そこから多くを学ぶ覚悟が必要です。年老いたアヌーラから私たちは、たくさんのことを学ばなければいけませんね」

 

わしおさんは「どっちが長生きできるか競争よ」とアヌーラに声をかけて別れてきたという。

 

飼育係の田口さんがこんな話をしてくれた。

 

「目が見えないアヌーラは年相応に耳も聞こえなくなっていると思っていたんです。ところが、あるとき耳の近くでちょっと大きめの声を出したら、少し嫌そうな反応をしたんですね。それからは声を抑えても、きちんと聞こえているようです。聞こえないふりはするかもしれないけど、耳はそこまで悪くないのかなと思いますよ」

 

みんなアヌーラが大好きだ。目がほとんど見えないアヌーラだけど大丈夫。あの大きな耳にきっと届いている。「アヌーラ、頑張れ!」の声が。

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