■91歳と80歳 長い人生の機微を刻んだしわくちゃの手が重ねられて
気づけば、時刻は11時30分前。早くも昼食の介助が始まるという時間になっていた。
先ほどの認知症の女性が落ち着いたのを見届け、談話室に戻った細井さんは、冒頭で、薬を飲んだあと再び黙り込んだままだった車いすのチエさんの隣へ。
「今日のお昼はなんやろうね。それにしても、朝から雨で冷えるな」
その両手をさすりながら、語りかける。するとチエさんが、
「あったかい手」
今日、初めて言葉を発したのだった。細井さんもうれしそう。
「そやけど、心の冷たい人のほうが手があったかい、って言うな」
「そんなことあらへん」
「そうか。チエさん。ありがとう」
91歳と80歳。長い人生の機微を刻んだしわくちゃの手が、もう一つのしわくちゃの手をギュウとやさしく握り返した。
(※文中の施設利用者の方はすべて仮名です)
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