「小学生以下の子供と65歳以上の高齢者を除いて、原則、発熱しても病院を受診しないでください」
医療機関の“診療拒否”とも取られかねない方針を、厚労省は10月12日、非公開の専門家会議で決定。翌13日には、岸田首相も出席する会合で正式決定したのだ。今冬に新型コロナとインフルエンザの同時流行が予測されているため、発熱外来の逼迫を防ぐために打ち出されたもの。
この方針によれば、発熱した場合に受診が奨励されるのは、(1)小学生以下の子供、(2)65歳以上の高齢者、(3)基礎疾患のある人、(4)妊婦のみ。基礎疾患のない13歳から64歳の患者は、自宅で抗原検査キットによる自主検査を行い、コロナ陽性であれば、健康フォローアップセンターに自主登録したあと自宅療養。コロナ陰性でもインフルエンザが疑われる場合は、できるだけ医療機関を受診せず、オンラインか電話の遠隔診療を利用することを推奨している。この遠隔診療で、“みなしインフルエンザ”と診断されれば、抗ウイルス薬を自宅配送してもらうという流れだ。
しかし、この方針に対して医療現場からは、「発熱する病いはコロナやインフルエンザ以外にもたくさんある」「誤診につながるのでは」といった懸念が出ている。
■インフル以外にも危険な疾患が…
「本来ならば、冬の同時流行に備えて、今から発熱外来の拡充に力を注ぐのが厚労省の仕事です。にもかかわらず、逆に患者の受診する権利を奪うようなメッセージを発している。こんなことをすれば、コロナやインフルエンザ以外の疾患が見逃され、処置が遅れて患者の命取りになりかねない」
そう警鐘を鳴らすのは、約2万人のコロナ患者を診てきた倉持呼吸器内科クリニック院長の倉持仁さんだ。熱や咳をともなうのは新型コロナやインフルエンザだけではない。“かぜ”にもさまざまな原因がある。
「さらに、医者は一見、コロナやインフルエンザ、単なるかぜと思われる患者のなかに、命にかかわるような疾患、たとえば白血病、虫垂炎、髄膜炎といったものが潜んでいないか、診察や検査をして見極めています。オンライン診療だけで“みなしインフル”と診断するのは、あまりにも乱暴です」
初期症状でインフルエンザに似た全身症状が現れる疾患は、ほかにもたくさんあるという。ナビタスクリニック理事長の久住英二さんは、「最悪の場合、敗血症で死に至ることもある」と、警鐘を鳴らす。
「よくあるのは、尿路感染症のひとつで、尿がたまる腎盂という場所に菌が入る腎盂腎炎です。すぐ抗生剤を飲めば大事に至りませんが、処置が遅れると敗血症になって臓器障害になり、場合によっては集中治療が必要になることも」
また、50代以上で特に注意すべきなのは肺炎球菌だという。
「肺炎を起こす菌と思われがちですが、血液にのって全身に菌がまわると、さまざまな感染症を引き起こす。治療が遅れると重症化し、死に至ることもあります」
このような疾患は、実際に患者を診察・検査しないと確定できないため、厚労省が受診を抑制することによって見逃される可能性がある。コロナ前の’17年には年間約6万人が敗血症で亡くなっている。治療の遅れによって、その死者数が急増する恐れがあるのだ。