■負担なき防衛費増はまやかしでしかない
「国はかなり無理をして防衛費財源を集めている」と見るのは、第一生命経済研究所の主任エコノミストの星野卓也さんだ。
「為替準備金である外為特会の剰余金3.1兆円、国の融資や出資金を扱う財政投融資特別会計からの繰入金0.6兆円などを、防衛費に充てる方針です。今年は子ども予算の倍増に向けた議論も行われる予定。消費税の増税や社会保険料引き上げなど、さらなる負担増を求める動きが出てくる可能性があります」
このような国のやり方には、経済産業省の元官僚・古賀茂明さんも異を唱える。
「外為特会や財政投融資特別会計に剰余金があれば、本来、国庫に返納され、子育てや社会保障など、その使い道が議論されるべきです。しかし、今回は問答無用で防衛に回す。その理由は『防衛費のために増税します』と大々的に言いたくないから。“実はお金はあるので、心配しないでください”として、防衛費増額への反発を抑えたいのでしょう。
しかし、そうしたお金も元は私たちの税金。防衛費に回れば、子育てや社会保障に充てるお金が減ります。それで今度は『子育てのために増税やむなし』と理解を求めようとするのです。こんなまやかし、許されません」
無理やり集められる金額は、総額5.3兆円以上に及ぶ(左上表参照)。また、岸田内閣が打ち出した防衛費増額のための所得税増税は、あたかも負担がないかのように説明されるが、これもまやかしだ。
「所得税1%分(2千億円)が防衛費に充てられると発表されています。すでに支払っている復興特別所得税2.1%を1%分引き下げ、その分を防衛費に流用することになるので、毎年支払う税金が増えるわけではありません。
しかしその分、徴収期限を延長して復興財源を確保する必要があり、20年延長という話も出ています。復興特別税は本来’37年に終わりその後は減税されるはず。延長は負担増にほかなりません」
防衛費増に突き進む国の方針に、古賀さんは危機感を抱いている。
「これまでの日本は軍事面においては軽武装で、国民生活向上を最優先にしてきました。それが今回の仕組みは、子育てや社会保障は後回しにして、まずお金があれば防衛費に回すというもの。憲法改正と同じかそれ以上に、国の形を根本から変える方針転換なのです」
国の姿を変える大変革が、説明なく行われようとしている――。