文部科学省の教科書検定に合格した小学6年生の社会の教科書全てで、沖縄戦集団自決について「軍関与」の記述がなかったことが波紋を呼んでいる。
文科省は28日、2024年度から小学生、高校生が使用する教科書の検定結果を公表。その結果を受けて『琉球新報』は29日、検定に合格した小学6年生の社会の教科書3社3冊の「沖縄戦」の記述において、「集団自決」に旧日本軍の強制や関与があったことを示す説明記述がなかったと報じた。
「集団自決」について、3社とも「アメリカの攻撃に追いつめられた住民の多くが集団自決した」といった内容で記載している。これにはネットで「黒塗り文化」「歴史修正」「住民が勝手にやったと?」などと批判が殺到し、ツイッターでは一時「集団自決」がトレンド入りした。
そもそも、この3社は現行教科書でも「集団自決」の関連において「軍の関与」について言及しておらず、今回も従来の方針を踏襲した形。しかし、ここまで批判される背景には、「文科省の過去の検定結果が影響している」と全国紙記者は指摘する。
「07年に文科省は高校教科書の検定で、集団自決に旧日本軍が関与したという記述の修正を求める意見を付け、出版各社が応じて記述を削除したことがありました。“戦後レジームからの脱却”をスローガンに掲げた第1次安倍政権が06年に発足してから初めての教科書検定だったため様々な憶測を呼びました」
しかし、沖縄で大規模な抗議の県民大会が開かれるなど反発は大きく、文科省は同年に方針を転換。出版社の訂正申請を承認して、高校教科書に軍の関与や強制性の記述が復活した。
「当時、文科省が軍関与の記述を”削除要請”した根拠の一つが、作家大江健三郎の著書『沖縄ノート』(岩波書店)の民事訴訟でした。住民の集団自決を命じたなどとする記述で名誉を傷つけられたとして、旧日本軍の当時の隊長らが出版差し止めなどを求めました。文科省は原告の『自決命令はない』との主張を根拠の一つに挙げ、『強制の事実が必ずしも明らかでない』と検定意見を付けたのです」(前出の記者)
同裁判は、05年8月大阪地方裁判所に提訴され、08年3月に大阪地裁判決は、集団自決への軍の関与を認定。2011年4月、最高裁が原告側の上告を退け大江側の勝訴が確定した。
07年に文科省が“削除要請”して以降、集団自決の記述に関して検定意見が付いたことはない。最高裁が軍の関与を認めた今、小学生の教科書に「軍関与」の記述があった場合、文科省の“検閲”に引っかかるのだろうか。文科省の担当者に問い合わせた。
――07年当時は大江健三郎氏の裁判の原告の主張を根拠の一つとして検定意見が付された?
「そうですね。当時はですが、日本軍の命令について断定的であると判断された教科書について、<沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現である>という意見が付されていまして、その結果、出版社による修正等が行われましたが、その後、訂正申請が行われて、訂正を受諾承認をしています」
――今後、小学生の教科書でも「軍の関与があった」と断定的な記述があった場合、検定意見は付く?
「いえいえ、あくまでも教科書検定なので、個々の具体的な記述に基づいて審議を行うもので、仮定のご質問にはお答えできません」
――「今も政府は記述を認めてない」という識者の意見もあるが、そうした事実はあるか?
「個々の評価はしてませんが、あくまでも学習指導要領上、軍の関与の有無まで記載を求めるものではありません。ただ教科書によっては中学校や高校で軍の関与について記述している教科書もございます。それをどこまでどのような形で盛り込むか、どのような表現で書くかというのは、発行者の判断によるものになります」
――国として「強制の事実が必ずしも明らかでない」から書いてはいけないと定めているわけではない?
「もちろんありません。実際に書いている出版社も結構あります。特に、高校の日本史探求などは昨年に検定をしていますが、かなり多くの図書でそういった記述がございます」
――つまり、今回の小6の教科書3冊が「軍関与」に言及しなかったのは、小学生の教科書だからということで、あくまで出版社側の判断ということ?
「そうです。発行者の判断になります」