■60歳まで頑張れたら、悔いはいっぱい残ると思うけど、悪くない人生やったと、思えるかな
ユキチャンキッチン閉店後も、自宅で取材が続いた。するとそこに、会社勤めをしている夫・敬介さんが帰宅。夫婦で並んでのインタビューに。
「妻は自分のことより、周りの人のために尽くす人間。それに、落ち込んだり、悲しんだりした姿を人には見せたがらない、弱音なんて漏らしたくない、そういう人です」
敬介さんは妻をこう評した。病気を境に、妻の変化した点を尋ねると「とくに変わったところはないと思う」とも。
「ただ、彼女の奥底に、覚悟みたいなものは生まれた気がします」
そう言った夫に「あんたは変わらんもんね」と、笑顔の妻のツッコミが入る。
その秋吉さんが、いまも忙しく営業を続けていることについては「もちろん心配だけど、それをやめさせてストレスになるほうが怖い」と、神妙な面持ちで続けた。
「ストレスはがんにはいちばんいかんと聞いてます。妻は、こうって決めたら、せんといかん人。先のこと考えてなんも動けんよりかは、好きなことして過ごしながら、その瞬間まで精いっぱい、生きよったほうがいいのかな、って」
いまも、ときおり容体が悪化し、夫の前でだけは苦悶の表情を浮かべることもあるという妻。そんな秋吉さんに敬介さんは「それでも」と、こう言葉をかける。
「いまの状態のまま、なんとか病気と共存しながら、せめて60歳まで頑張れたら。息子たちも、だいぶ大人になっとるけん、そこまで行けたら、もちろん、悔いはいっぱい残ると思うけど、そんなに悪くない人生やったと、思えるかなって」
少しだけ寂しそうに、夫の言葉をかみ締めていた秋吉さん。だが、次の瞬間、パッと顔に笑みを湛え、明るい口調でこう切り返した。
「あと15年? そんなに私が長生きすると思うとるけん、あんたは以前と変わらん態度なのね。なるほどね〜、あと15年も働かそうと思ってるんだ。こわか〜(笑)」
これには敬介さんも、苦笑いを浮かべるしかなかった。
息子たちは、母の病いをどう受け止めているのか。秋吉さんは「がんが見つかったときから正直に話してきた」という。敬介さんが続ける。
「でも、まだ当時は3人とも小さかったけん、よくわかってなかったと思う。ただ、僕からは当時も、最近も、『いつどうなるかわからんけん、ちゃんと一緒の時間をいっぱい過ごして。思い出、作れよ』とは言って聞かせてます」
8年前、秋吉さんにがんが見つかって以来、秋吉さんたち家族の間で一つ、大きく変えたことがあった。秋吉さんが言う。
「それまでは、各部屋でバラバラで寝てたんですけど。あの日からは、家族全員でリビングに布団を敷いて一緒に。それは、もう何年もたったいまも、そうしてます」