鈴木俊一財務相は6月28日、新紙幣の流通は’24年7月をめどに始めると明らかにしました。新紙幣の登場まであと1年です。
新紙幣は、1万円札は渋沢栄一、5千円札は津田梅子、1千円札は北里柴三郎と肖像画が変わります。現紙幣に大きな問題がないのに、なぜ今、紙幣を刷新するのでしょう。目的は3つあると思います。
第一はセキュリティの強化です。実は日本でも、偽造紙幣が’21年は約2千100枚、’22年は約950枚発見されています(警察庁)。流通期間が長くなると偽造は増える傾向があるため、より強固な防止策を施すのでしょう。
たとえば、紙幣に利用するのは世界初、肖像画が立体的に回転して見える3Dホログラム。また、傾けないと見えない文字や発光、虫眼鏡なしでは読めないほど細かい文字など、技術の粋を集めた偽造しづらい新紙幣が誕生します。
第二の目的はキャッシュレス決済の推進です。紙幣が変わると、自動販売機などお金を扱う機械はすべて改修が必要となります。その際、多くの自販機に電子マネーなどでの支払い機能がつくでしょう。
というのも、小銭の回収や補充には人手がかかるため、キャッシュレス決済に切り替えたい業者が多いからです。国の思惑どおり、新紙幣以降はキャッシュレス決済の利用機会が増えると思います。
第三の目的は経済の活性化です。先に述べた自動販売機などの改修で機械メーカーは今、特需状態。ほかにも恩恵を受ける企業は多いと思います。 新紙幣の流通が始まっても、現紙幣が直ちに使えなくなることはありません。これまで日本銀行が発行した53種類の紙幣のうち、現在22種類が使えます。
昭和61年で発行を終了した聖徳太子の1万円札も、昭和49年までの板垣退助の100円札も、明治18年〜昭和33年までの大黒様の1円札も、今もまだ、額面どおりの価値で利用できます。
しかし、古い紙幣はプレミアがつくため、古銭として価値が高いでしょう。先ほど挙げた板垣退助の100円札はもっとも古い時期のもので未使用だと5千円、美品なら1千500円の買取価格がつくことも。現1万円札も新札のまま保管しておけば、20〜30年後に価値が上がっているかもしれません。
ひとつ心配なのは、年末以降、現紙幣の未使用“ピン札”が不足する事態です。すでに現紙幣の印刷は終了しているからです。
キャッシュレス決済が浸透しても、お祝い金やお年玉などピン札を使いたいシーンもあるでしょう。どうしても必要な方は一定数を確保しておくといいと思います。
1万円札の原価はわずか25円程度といわれます。それでも日本国への信用があるため、1万円として流通しているのです。紙幣の価値が保たれるよう、国の信用をおとしめるような政策は慎んでいただきたいものです。