■年金額の上昇を抑えるマクロ経済スライド
岸田首相が言うように、物価高に賃金が追いつくことはあるのだろうか。
「昨年から今年にかけての物価高は、歴史的な円安と原油高、そしてウクライナやイスラエルなどでの軍事衝突など、経済に与える非常に大きな事象が立て続けに起きたことが要因です。
その影響は来年度も残ると思われますが、日銀の予想では2025年度には物価の上昇は1.7%と鈍化します。今年のような賃上げが今後も続けば、岸田首相の言う物価上昇に賃金の上昇が追いつく可能性は十分にあります」
だが、賃上げをすると、人件費を捻出のために、企業は製品の価格を上げざるをえなくなるという。
「現在のような急激な物価高はおさまりますが、ゆるやかなインフレは続いていくでしょう。賃上げによって現役世代は耐えられるかもしれませんが、年金を受給しながら、貯金を取り崩して生活しているような高齢者にとっては、かなり厳しい生活が待っていると思います」(加谷さん)
YouTubeで『年金博士・北村庄吾の年金チャンネル』を運営している、社会保険労務士の北村庄吾さんが語る。
「毎年4月に年金受給額が見直されます。以前は、物価や賃金の上昇に合わせて、同じように受給額も上がっていく仕組みでした。しかし、厚生労働省は、少子高齢化などによる年金財政の悪化を理由に、マクロ経済スライドを導入。その結果、受給額の上昇は抑制されることになりました」
ただし、賃金や物価が上がらず、年金の受給額も上昇しないときは、マクロ経済スライドは発動されないことになっている。
「長引くデフレで、過去に3回しか発動の機会がなかったマクロ経済スライドですが、今年4月の改定で3年ぶりに発動されました」(北村さん)
今年の年金受給額は、物価や賃金の上昇をうけ、本来2.8%上昇するはずだったのが、マクロ経済スライドの影響で、2.2%の上昇に抑制されたのだ(67歳以下の場合)。
政府が目指す持続的なインフレがおきた場合、毎年のようにマクロ経済スライドが発動されることになる。さらに、スライド調整率は公的年金全体の被保険者の減少率などで決まるため、この人口減少社会において、調整率の値は次第に大きくなると試算されている。
「年金の受給額は上がってはいきますが、それ以上に物価が上がり支出も増えることになる。十分な老後資金がない場合、生活の質を落とさねば立ち行かなくなるでしょう」(北村さん)