■生活保護者の「福祉葬」から行政とのつながりが……
最初の依頼が舞い込んだのは、その年の6月。バイトの合間にきみ子さんがせっせと配ったチラシを目にした人からの電話だった。
「隣町の市営住宅に暮らす年老いたご両親と、別棟に住む子供さんたち家族。その、70代後半のおばあさんが病院で亡くなって。『自宅に連れて帰って、家族葬をしてあげたい』、そんなご依頼でした」
石原さん夫妻は、早速仕事に取り掛かった。遺体を病院から自宅に搬送し、棺に寝かせると、祭壇を飾りつけた。先述した、充さんお手製の祭壇だ。この、初仕事となった家族葬、二人にとって印象深いものに。しみじみとしたようすで、きみ子さんは述懐した。
「決して広いわけではないご自宅に、お子さん、お孫さんたち大勢が集まって。お孫さんには『おばあちゃんにお化粧してあげて』と言って、ご遺体と触れ合ってもらったり。そうやって、手をかけたほうが、ご遺族もちゃんと思い出に残るし、故人様も幸せにお別れできると思うんです。
もちろん、涙ハラハラなシーンはありましたけど、とてもにぎやかに、ご家族の多くが、笑顔でおばあちゃんを送り出していた。『こういう葬式もいいもんだね』って言っていただけました」
好評の理由をきみ子さんは「ご遺族をお客様扱いしなかったからかな」と分析した。充さんも言う。
「うちでは、ただ参列すればいいって葬儀はやりません。私ら葬儀屋は送る手伝いをするだけ、あくまでも主役は、ご家族なんです」
初仕事から1カ月ほどたった夏のある日、別の市営住宅で息を引き取った男性の葬儀を引き受けた。その打ち合わせのなかで、故人の弟から「兄は生活保護を受けていた」と打ち明けられる。
「『それが、なにか?』というのが最初の率直な感想。というのも、私も夫も福祉葬、生活保護を受給している人の葬儀は、それまでやったことがなかったからなんです」
「福祉葬」とは、喪主が経済的に困窮状態にある場合や、故人に葬儀代を払える身寄りがない場合に、国が費用を肩代わりし、最低限の葬儀が行える制度。生活保護法でも「葬祭扶助」として定められている。葬儀形式は火葬のみを行う直葬に限られ、費用には自治体ごとに決められた上限額がある。
以上のような説明を、市役所の担当者から聞いたきみ子さん。そもそも、小規模で安価な葬儀を執り行うことを目的に起業した自分たちにも、ここにビジネスチャンスがあると考えた。
「いわき市ではそれまで、主に全国チェーンの葬儀社さんが、福祉葬を担っていました。でも大手にとっては、あまりもうかる葬儀ではないので、多くの場合、上限額いっぱいの見積もりを出していたと思います。いわき市の葬祭扶助の上限額は当時18万3000円でした」
ここでも、石原さんたちは、超破格値の見積もり額で入札に挑む。
「金額は言えませんけど、上限額をだいぶ下回る金額。もうけなんか本当にちょこっと。でも、私たちは夫婦二人が食べていければそれでいいという考え方ですから」
税金を投入する手前、1円でも安く引き受けてくれる葬儀社は市としてありがたい。そのうえ、いざ任せてみれば、丁寧な仕事ぶりで利用者の評判も上々となれば……。
「そこからです。どんどん福祉葬の依頼が入るようになって。さらに行政同士、つながりがあるみたいで。そのうち、今度は警察署からの紹介の仕事も入るように」
こうして、いしはら葬斎には、孤独死した身寄りのない人や生活保護を受けていた人、さらに事件や事故の犠牲者、自殺者など、込み入った事情のある葬儀の依頼が次々寄せられるようになった。
【後編】小さな葬儀社がみた3.11「東日本大震災で亡くなったご遺体はお顔だけが驚くほどきれいでした」へ続く
(取材・文:仲本剛)