岸田首相 高齢者の定義「70歳引き上げ」で年金1300万円減!労災死増加の懸念も
画像を見る このままでは死ぬまで働くことに(写真:satoshinpi/PIXTA)

 

■けがをしても労災申請できない高齢者

 

その場合、高齢者の労災死はどれくらい増えるのか、伊藤さんのアドバイスのもと、本誌が試算を行った。本誌の推計によると、2022年の60歳以上の就労者数は約1460万人。2030年の60歳以上の就労者数は推計約2810万人と、約1.9倍となる。労災に対する適切な対策をとらなければ、2030年における60歳以上の労災死は約700人(2022年は360人)が予想される。

 

過去に前出の尾林さんが相談を受けた高齢者の労災死の事例では、こんな悲惨なものがあった。

 

「年金だけでは心もとないからと、深夜のガソリンスタンドで働いていた73歳の男性が、〈連続勤務で体調が悪いので今日は休みたい〉と、スマホから勤務先にメッセージを送信しようとした矢先に心筋梗塞で亡くなったという事例がありました」

 

その男性は、持病や年齢を考え、「労働時間は週30時間未満」などと勤務契約を結んでいたが、契約は守られていなかったという。

 

「深夜の勤務自体大変なのに、亡くなる寸前には、猛暑のなか連続6日勤務までしていました。しかし、そんな状況下で亡くなっても、現役世代と比べると労働時間が短いため、労災と認められることは容易ではありません。こうしたケースは少なくないんです」

 

つまり、報告されている高齢者の労災での死者数は、氷山の一角という可能性があるというのだ。

 

「そもそも、高齢者の就業要件は厳しく、環境のよい室内で安全にできるような仕事は、なかなか見つからないのです」(尾林さん)

 

熊本大学法学部教授で労働法が専門の紺屋博昭さんも、「高齢者の雇用環境はブラックそのもの」と、こう続ける。

 

「各都道府県には、“シルバー人材センター”が設置されていますが、これは高齢者の雇用安定に関する法律のもとにつくられたにもかかわらず、高齢者の雇用安定にはつながっていません。

 

生活費を稼ぐほどの賃金が得られないばかりか、高齢者はセンターから紹介された仕事を“請け負う”かたちになっていて、就業先と雇用関係を結ばないため、けがをしても労災申請すらできません。“けがと弁当は自分持ち”というブラックな状況です」

 

こうした悲惨な状況を改善するためには、どうしたらよいのか。

 

「事前に高齢者への配慮がある勤務先か確認する、また契約内容と異なる労働環境で働かされた場合、すぐに辞める、または弁護士やユニオンに相談するなど、なんらかのアクションを起こすことをおすすめします」(尾林さん)

 

死なないための“知恵”と“お金”を今から蓄えておこう。

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