■「常に命を懸ける覚悟は持っています」
「総監室」という札がかかった扉を開けると、世界地図や担当区域である北海道・東北の地図などが壁に掲げられ、手前には大きな応接セット、奥には執務机が配置されていた。机の背後のわずかに開けた窓から海風が運ばれ、レースのカーテンを揺らしている。
《周到な準備なくしては的確かつ柔軟な対応はない》ため、毎日、7時半には出勤して8時からの業務の準備をしている。
「8時からモーニングレポートを受け、8時半くらいからは総監部の朝の会議に臨み、その後も夕方まで、幕僚の報告が続きます。何も事案が生起しなければ、16時半に退庁しますが、今のところ、事案が生起しない日はほとんどありません」
着任式後の記者会見でも、女性が働きやすい職場にするためには、まだまだ課題が山積していると語っていた。なかでも「決して許してはならないと意識している」のがセクハラ問題。陸上自衛隊では、五ノ井里奈さんの性被害が大きな社会問題となったばかりだ。
「一昨年の陸上自衛隊で生起した事案だけでなく、海上自衛隊においても、昨年10月に被害者の心情に寄り添っていない、誤った対応が発覚しました。セクハラ防止のための教育等各種対策を実行するとともに、事案を認知したならば、公明正大な調査の実施と被害者の心情に寄り添った対応を強く指導していく所存です」
一方、世界に目を向ければ、防衛費が増額されるなど、東アジアも含めた安全保障の情勢は混沌としている。
「有事の際、どういう場面に立つのかはわかりませんが、常に命を懸ける覚悟は持っています。自衛隊員は《事に臨んでは危険を顧みず》と宣誓しますので、誰もが同じ気持ちだと思っています」
そう語る近藤さんは、改めて海将としての責任の重さをかみしめていたに違いない。“国を守る、国民を守る、部下を守る、部下の家族を守る、それが私の使命だ”と――。
(取材・文:小野建史)