■観光の振興がパレスチナとイスラエルの懸け橋に
「ガザでの戦闘が一刻も早く終結することを祈る一方、メディアには現地の正しい情報を伝えてほしいと考えています。一度、ついたイメージというのは、なかなか払拭しがたいところがあります。パレスチナ全土でガザ地区のような戦闘が起きているわけではなく、日常を送っている地域があることも正しく伝えてほしいと考えています」
そう願う降旗さんだが、パレスチナ観光の未来について、楽観している面もあるという。
「2020年春から始まった新型コロナウイルスの流行中にも海外からの観光客がほとんど来なくなった時期がありました。そのときフォーカスしたのが、1948年のイスラエル建国時に、イスラエルにとどまったアラブ人です。イスラエル国籍をもつアラブ人は『アラブ48』と呼ばれますが、この方たちに観光プロモーションした結果、観光客として、ヒシャム宮殿をはじめヨルダン川西岸のパレスチナの観光地を訪れてくれました。
そのときの教訓を生かし、今回は東南アジアや中南米の人たちに、積極的に観光へのアプローチをかけています。統計を調べてみると、とりわけ東南アジアの人には観光客としてのポテンシャルが高いことがわかりました。このような状況下でも、東南アジアの方々は紛争や衝突に関係なく聖地を訪れたいという気持ちがあるようで、観光遺跡庁も重点地域として積極的に働きかけています」
観光業がパレスチナとイスラエルの懸け橋になることも祈っている。
「そもそも観光客にとって、観光地が分断されていることはなんのメリットもありません。海外からやってくる旅行客が、一生に一度中東を訪れたときに『ユダヤ教だけの遺跡だけを見たい』『イスラム教の遺跡だけを訪れたい』というニーズは少なく、イスラエルとパレスチナの一帯の遺跡に行きたいという方が多い。イスラム教やユダヤ教をつなげた形でのパッケージがうまくいけばお互いにとっては大きなベネフィットになります。
イスラエルとパレスチナの観光産業に関わる民間事業者もそこは理解しているので、表立って仲良くやっているとまではいいませんが、観光客のニーズに応える形で、双方の民間事業者同士が協力し合っていることも多いのです」
これからの展望について、降旗さんは次のように語る。
「長らく支援を続けてきた日本に対するパレスチナからの信頼というのは、非常に高いと感じています。我々として継続的にこの地域に対して、何らかの支援や、技術協力を続けていくことが、さらなる信頼につながると考えています。
もちろん、いずれ日本の人たちにもパレスチナに観光に来てほしいと願っています。そのために、ぜひ現地の正しい情報に触れてほしいし、私も広報していきたいと考えています」
近い将来、世界中からパレスチナに観光客が押し寄せることを期待したい。