■量産体制に入るまでには5兆円規模の資金が必要
日本の技術力が、再び世界に飛び立つような夢の事業だが、期待に反して出資金が集まっていないのが現状だという。
「2027年に量産体制に入るには5兆円が必要だと試算されていますが、ラピダスへの出資は、トヨタやNTT、ソニーグループなど8社から73億円ほど。“お付き合い”程度です」(古賀さん、以下同)
ここへきて3メガバンクなどが出資を検討しているという報道もあるが、その規模は最大でも250億円ほどだという。
「そこで国は合計9千200億円の支援を決めているのです」
なぜ、これだけ国が応援しているのに、出資が集まらず、融資もなかなか受けられないのだろうか。
「端的に言えば、成功する見込みが低いと思われているからです」
まず、先述のとおり、日本の半導体技術は40ナノの水準しかない。
「2ナノの技術は夢のまた夢。そのため米国IBMから技術を提供してもらっているのですが、そもそもIBMの技術は実験室レベルのものにとどまっています。 そのため、米国政府は世界最先端の台湾TSMCやそれを追う韓国サムスンを誘致し、IBMの技術は無視してインテルを支援しているのです」
本国の支援をインテルに奪われたIBMにとって、ラピダスは渡りに船というわけだ。
「失敗しても損は出ないし、成功すれば自分たちの技術を世界に拡販できるオイシイ話なのです」
さらに、半導体の開発・製造に欠かせない機材への不安もあるという。
「半導体を作るには、オランダのASML社が独占する、EUV(極端紫外線)露光装置が不可欠。巨大な装置ですが、繊細なメンテナンスが必要のため、TSMCでも数千人単位でメーカーのスタッフが常駐しているそうです。こうした付帯サービスでも新参者の日本は後回しにされてしまうでしょう。結果、ラインの運営がうまくいかず開発計画が遅延することになります」
半導体やエレクトロニクス分野の調査・分析を行ってきた大山聡さんは、量産化成功後の不安要素もあると考える。
「ラピダスの挑戦を応援していますが、かなりハードルが高いことは間違いありません。
仮に量産体制を構築できても、商売になるのか――。最先端プロセスの半導体は50%ほど、場合によっては70%近くの確率で不良品が出てしまうもの。ライバル企業とのコスト競争のなか、不良品が多くなれば、量産するほど赤字を抱えてしまうことになります」
前途多難のうえ、量産までに必要と思われる資金5兆円のうち、1兆円しか集まっていない。
「年明けの国会では、ラピダスの銀行融資を政府保証にする案も審議されるでしょう。保証してくれるなら、銀行も喜んで融資するはずです」(前出の古賀さん、以下同)
政府保証というのは、要は失敗した場合、政府が融資の焦げ付き分を補てんするということだ。
ただし、安易な政府保証はもろ刃の剣でもあるという。
「正常な融資であれば、銀行側のラピダスへのチェック機能が強化され、融資を受けるラピダスにも緊張感が生まれます。しかし、政府が保証してくれるとなれば“失敗しても痛手がない”と考えるモラルハザードが生じるものです。
さらには、人件費や物価も上昇傾向にあるため、5兆円の予算では足りない可能性も高い。
その“痛手”は、国債などを通じ、結果的に私たち国民が補てんすることになるのです」
仮に政府が100%保証した場合、どれほどの負担増になるのか。5兆円を日本の人口で割ると、1人当たり4万2千円、夫婦2人なら8万4千円だ。
岸田政権発足時に高らかに語られた“聞く力”は、結局最後まで見せてもらえずじまいだった。