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「11月5日(現地時間)に投開票が行われたアメリカ大統領選で、ドナルド・トランプ氏(78)が第47代大統領に選出されました。その数時間前に“トランプ優勢”の開票速報が流れると、1ドル=154円台と、3カ月前の水準まで円安に振れたように、トランプ氏の再選が日本の経済に大きな影響を与えることがわかります」(全国紙経済部記者)

 

トランプ氏お得意の“口先介入”で、株や為替も乱高下しそうな勢いだが、経済評論家の加谷珪一さんは以下のように分析する。

 

「トランプ氏が公約に掲げていたとおり、中国の輸入品に60%、ドイツや日本などの友好国にも10~20%の関税をかけるほか、不法移民を排除するなどの政策が実行された場合、今後は円安傾向となるでしょう。この2~3カ月、円高傾向が続き日常品の値上げが落ち着いてきましたが、トランプ氏の再選で、来年の春あたりに再び値上げラッシュが起こるかもしれません」

 

トランプ次期大統領の極端な保護政策は、生活必需品の値上げを招く円安の引き金となるようだ。

 

「まず、関税を引き上げると、アメリカ国内ではそれまで安かった輸入品が高くなります。さらに移民問題が拍車をかけます。アメリカ経済は賃金の安い不法移民によって支えられてきた側面があるので、移民を排除すれば労働力不足で人件費が上がります。

 

輸入品ばかりでなく、アメリカの国産品も値上がり、全体的な物価高になります。すると、インフレを抑制するために、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は金利を上げることになります。日本との金利差が広がるとドル買いが進み、円安を招くというメカニズムです」(加谷さん)

 

10月31日に帝国データバンクが発表した「食品主要195社価格改定動向調査」では、’24年の値上げ品目は1万2千458品にのぼり、値上げの要因の約3割を占めるのが円安だと報告されている。

 

第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣さんの試算では、対ドルで1円円安になることで、子ども2人の4人家族の場合、食費だけで年間2千932円の負担増になるという。1人暮らしの場合では1千429円の負担増と試算されている。

 

夫婦2人の家庭でも、2千円程度の負担増は避けられず、1ドル=160円ほどまで円安が進めば、年間の食費は1万円以上増えることに。また、日本の輸出品に高い関税が課せられると、日本国内での賃金にも影響が及ぶという。

 

「自動車産業を代表とした製造業は、高い関税から逃れるため、現地生産へシフトすることになります。そうなれば日本国内で空洞化が起き、工場での生産量が減少。従業員の賃金が上がらなかったり、リストラが行われたり、下請け会社も厳しい経営を強いられたりすることになります」(加谷さん)

 

トランプの“脱環境問題”を問題視するのは、第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生さんだ。

 

「’17年にトランプ氏が大統領に就任した際、TPPの即時脱退と同時に打ち出したのが、温暖化対策の枠組みであるパリ協定からの離脱です。新政権でも、再生可能エネルギーへのシフトチェンジの流れを止め、地球温暖化を助長する政策がとられる見込みです。近年、カカオ豆やコーヒー豆の不作でチョコレート製品やコーヒーが値上がりしている『ビーンズショック』など、環境破壊は異常気象だけでなく食材の供給にも直結します」

 

経済産業省の元官僚の古賀茂明さんは、日本の軍備拡大に着目する。以前はGDP比1%だった防衛費を、岸田前首相が2%まで引き上げた。しかし――。

 

「そもそもアメリカから購入しようと想定している武器調達費用は、1ドル=130円だったころに計算されたもの。ところが円安によって、当初予定していた武器をそろえられない状況です。予算が足りないから買えないという日本の言い分は通用しないでしょう。アメリカの思惑どおりに進めば、さらに防衛費がかさむことは避けられません。ただでさえトランプ氏は高めの要求をしてくるので、防衛費がGDP比3%以上必要になってもおかしくないでしょう」(古賀さん)

 

事実、トランプ前政権の国防ブレーンも、NHKなどのメディアに対し「GDP比2%ではなく、3%にすべき」と明言している。仮にGDP比1%(6兆円)をさらに上乗せされるとすれば、税金などにより国民1人当たりの負担は5万円も増えることになる。

 

この防衛費負担増が現実的に思えるほど、世界情勢は混沌としている。中東やウクライナの状況に関して無責任な発言を繰り返すトランプ氏に、世界の戦いを終息させることはできるのだろうか。

 

「ウクライナへの支援を打ち切り、ロシアが勝つという形で戦争を終わらせる可能性はあります。一方、中東では、親イスラエルのトランプ氏が再選したことで、アメリカからさらなる支援が引き出せる公算が高くなりました」(古賀さん)

 

中東問題は、エネルギー価格にも影響を及ぼす。日本国内ではガス、電気代の補助制度が10月に終了しており、一般家庭ではガスで200?300円、電気代で500?600円ほど月ごとの負担が増えることに。

 

「中東情勢の状況次第では、1バレル70ドルで安定していた原油価格が、80ドル近くまで上がるリスクがあり、さらに円安も進めば輸入価格に追い打ちをかけます」(熊野さん)

 

以上のように、指摘されている食費や光熱費の支出増、防衛費を賄うための国民負担増を夫婦2人家庭で試算すると、年間で12万2千円にのぼった。

 

「電気、ガス、水道、灯油、ガソリン代などが家計に占める割合は8%、食費が約30%で、ギリギリの生活を強いられています。これ以上の負担増となれば、レジャーや趣味に費やすお金を我慢したり、副業して収入を増やすなどして自衛するしかありません」(熊野さん)

 

トランプ氏の再登板により、はやくも懸念される食費・光熱費の支出増、防衛費拡大による増税、雇用への影響、環境問題の深刻化……。“またトラ”の4年間は、私たちの生活に暗い影を落とすことになりそうだ。

 

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