昨年10月に幕を閉じた「大阪・関西万博」。開催場所の夢洲(大阪市此花区)では2030年秋ごろに、日本初の「カジノ」を含む統合型リゾート(IR)開業が予定されるなど依然として注目を集める大阪だが、現在、府が公開した“違法ギャンブル”の啓発動画がSNSで物議を醸している。
大阪府は1月21日、若年層の違法オンラインギャンブル対策の一環として、《違法オンラインギャンブル等対策啓発動画「ギャン太郎」》と題したアニメ―ション動画をリリース。動画は府の地域保健課依存症対策グループの公式YouTubeチャンネルでも公開されており、その大まかな内容は以下の通りだ。
アニメの主人公は高校生の「ギャン太郎」。ある日、スマホでオンラインのスポーツベッティング(違法)を見つけ、「ラクして生きる人生みつけたかもしれん!」と徐々にのめり込んでいく。負けを重ね、いよいよ困り果てたギャン太郎に、別のキャラクターが「本能に任せて動いていたら、自分が“鬼”になってしまったんや。でも鬼になったからって、戻られへんわけちゃう」とアドバイスする。ギャン太郎はカウンセリングを受け、「自分の中の鬼に勝った」(依存を克服した)というエンディングを迎える。
そして、エピローグでは、「オンラインカジノは違法です。オンラインカジノとは、スマホやパソコンなどを通じてオンライン上でゲームを行い、その結果に対して現金や電子マネーを賭けることです」「日本では、政府が認めたギャンブル以外は全て違法です。海外の賭博サイトやスポーツベッティングも違法です」「勝っても負けてもやめられなくなってしまうのが『ギャンブル依存症』」という啓発文が流れる。
なお、動画の作成は昨年8月に大阪府が公募を開始し、9月にホームページ上で「株式会社博報堂プロダクツ 関西支社」が事業者として決定したことが公表されていた。
動画の公開を受けて、「公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子氏が1月27日にXで、《動画冒頭において「楽して生きる人生をみつけた」という動機付けがなされていますが、これは「ギャンブル依存症になる人間は怠け者である」という誤ったステレオタイプのギャンブル依存症者像を強化するものです》と指摘。そのほか、以下のように動画の問題点を訴えた。
《動画内では、依存症になってしまったことを「自分の心が鬼になった」と表現し、解決策としては「自分の中の鬼に打ち勝つ」ことが重要であると説いています。これは医学ではなく、ただの無知による精神論です》
《本動画における「鬼」の表現は、本来であれば未成年や若者をターゲットに違法行為を行わせる「違法業者」に向けられるべきです。依存症という病気に苦しむ当事者を「鬼(=異質なもの、排除すべきもの)」として描くことは、当事者の自尊心を傷つけ、孤立を深める結果となります》
田中氏は投稿で、1月31日付で吉村洋文大阪府知事(50)宛に送付予定の要望書の写真を添付。書面によると、現段階で「考える会」以外の団体も共同提出者として名を連ねており、《本動画の公開停止および削除》《内容を是正した動画への差し替え》《動画制作プロセスにおける専門機関との連携》を求めている。
なお、日本維新の会所属時にIRに賛成した身として、ギャンブル依存症対策を主要政策に掲げる国民民主党・足立康史参院議員(60)は、田中氏の投稿を引用リポストし、《大阪府の動画の問題点は、依存症という病気に対する根本的な誤解と、誤ったメッセージがもたらす害悪にある。私もそう感じました》などと賛同を示している。
そのほか、一部のユーザーからも、動画の内容について以下のような疑問の声が噴出した。
《「楽して生きたい」「自分の心の鬼に負けた」依存症を怠けや精神論にすり替え、当事者を見下す表現。公的な啓発として、到底容認できない》
《病気という視点がない。依存症になった人をバカにしているのかと思いました。こんなの高校生に配らないでほしい。 #大阪のギャンブル依存症対策が酷すぎる》
《ギャンブル依存症=自分を律せれない怠け者、という誤解を強化する動画にショックを受けました。沢山の当事者や家族と接してきましたが、実際の殆どの当事者の方々はとても真面目で勤勉です》
国内初のカジノ施設誕生という時代の転換期を迎えるにあたって、適切なギャンブル依存症対策、啓発は急務だ。そこで本誌は27日、大阪府の地域保健課に対し、動画に関する取材を申し込んだところ、担当者は「(SNS上の)様々なご意見は承知しております」とコメント。
続けて、動画作成の目的については、「オンラインギャンブルについてよく知らない方に違法であることを伝える、すでに悩んでいる方にも相談できる場所があることを伝える。そのほか、無関心層に対し、関心を持ってもらうこと」だと説明。なお、現在のところ、動画を削除する予定はないという。
