■今年のクマは、市街地近辺で“越冬”した個体
これまで3000回以上クマに遭遇し、9回襲われた経験もあるという米田所長が解説する。
「これまで半世紀以上クマを見てきましたが、今年出没したクマは、これまでとまったく異なっています。とくに宮城県仙台市や福島県郡山市の中心部で4月に目撃されたクマは、山から移動してきたのではなく、市街地近辺で“越冬”した個体である可能性が高いのです。仮に山から下りてきたのであれば、仙台市ならば山間地帯の蔵王、郡山市ならば猪苗代周辺から歩いてきますが、中心部までは30~40kmほどの距離があります。今回のように体長150cmを超える個体が、その途中で目撃されずに、突然市街地にあらわれるとは考えにくいのです」(米田所長、以下同)
米田所長は、クマの“アーバンベア”化がいっそう進行していると指摘する。アーバンベアとは、山林から市街地や住宅街に下りてきて定着・出没する都市型のクマのこと。本来は臆病なクマが人里の食べ物の味を覚え、人間を恐れない状態になっていることが問題視されている。
「かつては、母子のクマが市街地に出没し、母クマだけが駆除されて、残った子グマがそのまま住みついてアーバンベアになってしまうケースも頻発していました。しかし現在は、成獣から子グマまで、多様な階層が市街地に定住し、山林のクマと同様に社会構造を形成しつつある段階なのです」
そして、これからの時期もっとも警戒が必要な理由として“クマの繁殖期”が挙げられる。
「6月は、クマの繁殖期です。一昔前は、夏は山の中へ山菜を採りにいった人などが、緊張感が高まっているクマと遭遇して、重大事故になるケースが大半でした。しかし、繁殖期をむかえるのは、市街地にいる“アーバンベア”も同様です。よりナーバスになっている成獣が身近に存在するため、市街地での人身事故のリスクが、かつてより顕著に高まっていると言えるでしょう。
さらにもう一つ心配な点があります。通常、クマの越冬後は、体重が2〜4割減ります。脂肪が落ちて、皮がだぶだぶに伸びきっているものですが、今年の春に市街地で目撃されたクマは皮にハリがあり、体重100kg超えの成獣ばかり。丸まると太っていました。理由の一つに、北海道や東北の暖冬の影響で、冬眠中のエネルギー消耗が少なかったことが考えられます。これはつまり、“元気な状態で活動を開始している”ということ。例年以上に活発な行動が見込まれるのです」
「クマ外傷」に詳しい秋田大学医学部救急・集中治療医学講座の中永士師明(なかえ・はじめ)教授は、過去、本誌の取材に対し次のように解説していた。
「クマ外傷患者で、傷を追った身体の部位は、顔面が90%を占めており、顔面骨骨折、眼球破裂などもありました。頭部(60%)では頭蓋骨骨折、硬膜下血腫なども。クマ外傷が顔に集中するのは、動物の習性で、相手を威嚇するために、自分を大きく見せる習性があり、クマも立ち上がって、鋭い爪のある手で払おうとする。ちょうどその位置が人の顔あたりなのでしょう。その後、牙のある口を使って、人の顔を噛んでいきます。クマによる傷は想像以上に深い。たとえば、クマの一撃で鼻など顔の一部が離断された際にも、それを持って帰れば、再建される可能性があることも知ってほしい。ただし、眼球が破裂したり飛び出したりして失明してしまうケースは、今の医学では治せません」(中永教授)
命の危険に加え、生涯残るような大怪我を負うかもしれないと思うと恐ろしい――。
では、昨今の被害状況を踏まえて、対策はどのように取られているのだろうか?引き続き米田所長に伺った。
