中高年者に人気の登山。70代の遭難は全体の20%以上(写真:Enao-kagari / PIXTA) 画像を見る

7月1日の富士山の山開きを皮切りに、本格的な夏山登山のシーズンが始まる。登山人気が続く一方で、山岳遭難は深刻さを増している。

 

警察庁によると、2025年の山岳遭難者は3623人(うち死亡・行方不明332人)で、統計が残る1961年以降で最多に。年齢別では70代が20.7%で最多で、50代(17.3%)、60代(19.1%)と中高年の遭難が目立った。

 

なぜ中高年の山岳事故は多いのか。日本山岳・スポーツクライミング協会の廣川健太郎副会長に聞いてみた。

 

「登山者全体に占める中高年の割合が高いことに加え、体力や身体能力の変化が背景にあると考えています。中高年になると、体力、柔軟性、筋力、敏捷性などが若い世代より落ちていきます。山ではその差が、疲労や転倒、行動不能につながりやすいのです。

 

高齢者では、知らないうちに歩く力が落ちている人も少なくありません。以前と同じ感覚で山に入ると、後半に疲れが出て、体調不良や転倒につながります」

 

さらに、50〜60代から登山を始める人が増えたことも一因だという。

 

「経験や体力に見合ったコースを選べないまま、難しい山に入ってしまうケースも。自分に合った山かどうかを見極めることが最初の安全対策です」(廣川副会長、以下同)

 

遭難を防ぐには、出発前の準備が欠かせない。コースを下調べし、標準コースタイム、標高差、危険箇所、下山ルートを確認するなど準備は万全に。

 

「装備は、季節に合ったウェア、雨具、食料、水、地図、磁石、ヘッドライト、携帯電話、予備バッテリーをそろえ、登山計画は家族と共有し、登山届も提出することも忘れないようにしてください。

 

大切なのは、行きたい山ではなく、今の自分が安全に歩ける山を選ぶこと。日常的に歩く運動をして、自分の歩く力を把握しておいたほうがいいでしょう」

 

警察庁によると、山岳遭難の原因では「道迷い」が30.9%で最も多く、「転倒」19.2%、「滑落」17.3%と続いた。

 

「事故が起きやすいのは、疲労がたまる登山後半、とくに下山中です。分岐や枝尾根(稜線から枝分かれした小さな尾根)では道迷いが起きやすく、近郊の山では作業道など地図にない道に入り込む危険もあります。夕暮れ時にライトを持っていないために道を見失うケースも少なくありません。

 

また、濡れた岩や落ち葉、石灰岩の道などは滑りやすく、斜面を横切るトラバースや下りでは、転倒が滑落や転落に直結しやすいのです」

 

下山中こそ事故が多いと意識して、食料や水分をこまめに取り、必要に応じてストックを使うことも重要なポイントだ。

 

さらに、情報収集にも気を配りたい。

 

「現在は登山アプリや個人の記録を参考にする人が多いのですが、所要時間や難易度の感じ方には個人差があります。個人が発信した情報だけで判断せず、山と高原地図、山岳専門サイト、自治体や観光協会などの情報も確認してほしいです。標準コースタイムに対して、自分がどの程度の速さで歩けるかを計画段階で想定することが大切です」

 

さらに、昨年1年間に登山中にクマに襲われた遭難者は27人と、前年の3倍に急増しているのも気がかり。今シーズンも引きつづきクマへの警戒も欠かせない。

 

「クマ対策の基本は、遭遇しないようにすることが最善です。クマスプレーを持っていればよいというものではありません。風向きによっては使えない場合も。登山前には、環境省、地元自治体の情報で、予定コース周辺の出没情報を確認しましょう。

 

2週間前から前日まで継続してチェックして、コース上で出没がある場合は中止やルート変更を検討し、人身被害があり、クマが捕獲されていない場合は『即中止』が原則です」

 

登山中は、クマに人間の存在を知らせることが重要になる。

 

熊鈴、ラジオ、ホイッスルなどを使い、とくに見通しの悪い沢筋や尾根、出没情報がある地域では音出しを徹底する。食料やごみは匂いが漏れないよう密閉し、単独行動は避けるといったことも忘れないでほしい。

 

「クマが嫌がるのは、自然界にない人工的で高い音です。熊鈴や金属音、ラジオの人の声、ホイッスルなどで、人間がいることを知らせることが接近防止につながります。

 

長野県警山岳救助隊岸本隊長、母袋副隊長から伺った話では、クマよけ蚊取り線香など、煙、匂いもクマは警戒するようであるとのこと。とくに、テントを張って宿泊する場合は取り入れてもよい対策と思います」

 

もしクマを遠くで見たら、まず立ち止まり、位置と進行方向を確認することも大切だという。

 

「コース近くで見た場合は、ルート変更や撤退を判断してほしいです。至近距離で出合ってしまった場合について、大声を出したり、驚かせたりせず、ゆっくり後ずさりしてください。走って逃げてはいけません。襲われそうになった場合は、クマスプレーで対応し、最後はうつ伏せになって頭を手で守ることが基本です」

 

夏山は、準備を整えれば大きな魅力を味わえる一方、判断の遅れや過信が事故につながる。

 

「登山は自然を相手にする活動です。体力、装備、天候、計画、そしてクマなどの自然条件を総合的に見て、危ないと思ったら引き返す勇気を持ってください」

 

登山初心者もベテランも、リスクを理解して、適切な対策をして、事故のない登山を楽しもう。

画像ページ >【写真あり】昨年秋、秋田県能代市で農作業用の小屋の脇の罠にかかったクマ(他2枚)

出典元:

WEB女性自身

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