《能登半島豪雨から2年》亡き14歳少女の父が明かした遺族のいま「娘の死で、商売をしている」という誹謗中傷に苦しんだことも
画像を見る フクロウのカップを持つ祖父・誠志さん(撮影:ただ〔ゆかい〕)

 

■「災害が多いなか、まずは命を守ることを考えて。翼音の死を無駄にしたくない…」

 

住む家も失った鷹也さんは、長男を連れて野々市市にある父・誠志さん(65)の仮住まいを頼った。翼音さんが亡くなり、仕事に戻れる心理状態にはなく、誠志さんも母・悦子さん(66)も食事がのどを通らないほど落ち込んでいた。一人になると、いろいろ考えてしまう。なぜこうなってしまったのかと、自分を責めてしまうこともあった。

 

「じいちゃんばあちゃんの出張朝市の開催場所が富山市で、出発したのは、その前日の授業のある金曜日やったから、翼音は行かなかったんです。学校を休ませてでも行かせていればと悔やんだし、そもそもあの場所に家を買ってしまったことも後悔しました」

 

通話することがかなわなかった翼音さんからの最後の着信履歴も、頭から離れない。

 

「豪雨当日、ビデオ通話を切った後に翼音から電話があったんです。ボクはほかの電話対応をしていて出られませんでした。

 

すぐにかけ直したけど、つながらなくて。あのときボクに何を伝えたかったのか、最後に何を言いたかったのか……」

 

答えの出ない問いかけが堂々巡りをしていたが、ふと気がつくと鷹也さんのそばには長男がいた。

 

「翼音の死に、長男は一回だけ号泣して、その後、泣く姿を見ていません。はたしてしっかり悲しめているのか……。翼音は仲がよかった弟を心配しているはずです。長男を一人前に育てなければならん、仕事をせんといかんと……」

 

ようやく前を向き始めたとき、輪島塗の蒔絵師である誠志さんからこんな提案が。

 

「うちの手伝いをせえへんか。すぐに勤めるのは厳しいやろうし、自営業なら時間がきっちり決まっておらん。できるときにやって、つらかったら休めばええ。ちょっとずつでもどうか」

 

鷹也さんは、翼音さんも好きだった出張輪島朝市の手伝いを始めた。誠志さんと悦子さんで切り盛りしていたが、鷹也さんと悦子さんが出張朝市の仕事を担当し、誠志さんは仮住まいの自宅で創作活動に専念することに。

 

「長男は『大丈夫や』と言いますが、あの日以来、子供を一人で家に残すことができなくなったんです。ボクらが出張朝市しているときは、父に家に残ってもらっているんです」

 

朝市では、自分たちのブースには必ず翼音さんの写真を立てかける。生前、率先して店番をしていた翼音さんを、近くに感じていたいのだ。

 

「いまのうちの看板商品は“翼音のフクロウ”がデザインされた漆塗りのカップ。事情を知って『大事に使いますね』『翼音ちゃん、かわいいね』と言ってくれたり、ときには泣いてくれるお客さんもいて……。みなさんに支えられていると感じます」

 

“2羽のフクロウが寄り添ったデザインに”というのは、生前の翼音さんの提案だったのだ。

 

出張朝市は、おもに土日に行われるため、平日は手持ち無沙汰に。そんな鷹也さんを見て、誠志さんは「輪島塗を教えるから、やってみないか」と声をかけた。

 

「輪島塗を継ごうと考えたことがないから、基礎の基礎も知りませんでした。最初は漆を塗るだけやと甘く考えていましたが、初めて箸に漆を塗ったら、なかなか塗れずに漆をはじいてしまう。何で(色が)つかんのやろと思っていたら、箸についた手の脂が原因でした」

 

生漆の扱いを間違えて、「目が開かんくらい」ボコボコにかぶれてしまったことも。

 

「1年くらいは売り物になるもんは作れませんでした。そんななか、ふつうより乾きやすく、初心者でも扱いやすいパール漆というのを使うようになって、ほんの少しだけは上達しました。

 

親から『ラメ入りのほうが目立つ』というアイデアをもらって、銀粉や金粉を散らした箸が、ボクが作った商品になります。初めて自分の箸が売れたときは、すごくうれしかったですね。『頑張っとるね』『その箸、かわいいね』と声をかけられると、自信になりました」

 

だが、実は漆塗りの仕事に関して取材を受けることにはいまも戸惑いがあるという。

 

「職人なんて名乗れるレベルではないことはわかっています。そんなボクが商品を作ることを発信すると“娘の死で、商売をしている”といった誹謗中傷が、ネット上に書き込まれたりするんです」

 

鷹也さんへの取材は昨年から申し込んでいたが、こうした理由から断られていた。だが三回忌が間近に迫り、豪雨災害が風化していくことに危機感を覚えることもあったのだろう。

 

「フクロウのカップには、家族全員で文面を考えた手紙を添えています。翼音がフクロウのキャラクターを考え出した経緯といっしょに《このカップを見て災害があったことを思い出し、この死を無駄にせず自分たちにできる備えをしてほしいと思います》と。

 

熊本の地震や千葉の豪雨などでも死者が出ています。自然災害が多いなか、まずは命を守ることを考えてほしい。翼音の死を無駄にしたくないから、それを皆さんに伝えたいんです」

 

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