■「値下げしていないとSNSで叩かれる恐れが」
戸羽氏は陸前高田市長として、12年間市民に寄り添い、東日本大震災からの復興に尽力してきた。じつは市長を退任後の2023年から、市の地域産業の活性化を目指して和洋菓子の製造販売業を営んできたという。
「お店の名称は『ゆきのや』。家族経営のようなもので、私を含めて4人で運営していました。陸前高田市のブランド米『たかたのゆめ』を米粉に使い、どら焼き、チーズケーキ、シフォンケーキなどを製造・販売しました。元市長だからこそ、『たかたのゆめ』を使わなきゃと思って、アレルギーなどのある子どもたちも食べやすいように『100パーセント米粉のグルテンフリー』で始めました」
戸羽氏が地元でつくるお菓子は、市民が多く買いに来てくれたことで「トントンくらいの経営状態」にはなっていた。
そして「将来は障害者雇用の場にしたいという夢を温めていた」戸羽氏だったが……。
「ここ数年の米価の急騰で、ブランド米の価格が2倍近くになりました。でも、私としては絶対に価格転嫁できないと思いました。それで、売れば売るほど赤字という状況を迎えてしまいましたが、耐えられるところまで耐えようと」
ところが、中東情勢の悪化などによる物価高騰の波がさらに押し寄せた。
「どら焼きを包む袋、賞味期限や内容物を印刷するシール、封入する乾燥剤……お客さんには見えないところの資材価格が、何から何まで値上がりし、とどめは今年2月のイラン空爆でした。今年の春で、経営を『一時休止』せざるを得ませんでした」
そのように、戸羽氏は「ささやかな商売の苦労を身をもって味わった」からこそ「中小企業や個人事業主、個人商店の置かれている現在の状況」が実感としてわかるという。
「たとえ政府が来年4月に食料品の消費税率を7パーセント分引き下げたとしても、いまの物価高の状況で価格を下げろなんて、地域のお店などではとても無理だと、心の底から思うわけです。物価高騰で本来、値上げしたいところを我慢して、価格据え置きできたお店は、いくら国から『価格を下げろ』と言われても、難しい現状がある。それが国民生活の現実なんです」
戸羽氏は、このまま消費税法案が可決・成立した場合、次の2点が危惧されると話す。
「ひとつは、来年4月の減税施行を前に、お店が防衛手段として『いまのうちに値上げしておくしかない』というマインドになることです。そうなれば減税効果は限定的です。もうひとつは、4月以降に店頭価格が下がっていないお店が、SNSなどで『あの店は値下げしていない』と密告されたり、叩かれてしまうという醜い状況が国民同士で生まれてしまう恐れです。まさに、誰もハッピーにならない政策になってしまうことを危惧します」
画像ページ >【写真あり】店を経営した経験から“値下げ強要”に疑問を呈す戸羽さん(他1枚)
