■お酒を飲まない人にも子どもにも来てもらいたい「みんなの場所」。困っている人もその中にいる
福祉の現場でジレンマを抱えていた謙一さんは、真剣に転職を考え始めていた。だが、自分が本気で取り組みたい次の仕事が見つからない。そこで目を向けたのが、経営の厳しい家業の立て直しを図ることだった。
「岩田屋再興のすべはないか、いろいろ悩みました。情報を集め、妻を誘って日本酒の酒蔵や都内の酒店を巡ったり。そうして、導き出した答えが、角打ちだったんです。
考えてみれば僕と妻がずっと福祉の仕事に携わってきたのも元来、人が好きだったからで。それなら、この店を人が集まれる場所、人々が繋がれる場所にしようと。同じようにお酒を売っていても、コンビニで人が繋がり合うなんて、想像できないじゃないですか。でも、ここに角打ちがあったら、それができる、そう思ったんです」
「新しいおしゃれな角打ちは、もういくらでもあります。でも、うちが目指すのはそこじゃない。だから僕は、もう改装前からノンアルコール飲料や、駄菓子を置くことにもこだわったんです。お酒を飲まない人、子どもにも来てもらいたいから。駄菓子の儲けなんて1個1円とかですけど。それでも、来てもらう人の分母を大きくするためには、必要な商品だと思って」
分け隔てなく、みんなが来られる店ならば、そこに困っている人もきっといる─。謙一さんたちのその予想は、決して的外れではなかった。
「知的障がいでお金の管理がうまくできない人、夫のDVに悩んでる人、いろんな相談に乗りました。でも、決して僕らから聞き出すことはしません。僕らはお客さんの顔を観察しながら、たわいもない話をしながら。そうやってゆっくり親しくなったあとで、お客さんから『じつは……』と打ち明けられるんです。
相談を受けたら? じっくりと聞いて、行政の窓口や専門機関を紹介したりもします」
■「みんなの食堂」も始まった。「温かい人と人の繋がりのある場所」それが岩田屋商店
「ネグレクト(育児放棄)の子との出会いをきっかけにして始めたことがあるんです。この飽食の時代に、まさかごはんを食べられない子が、それも同じ地域にいたことがショックで。自分のことのように悲しくって。妻とも話をして『なにかやりたいね』と」
岩田屋商店では定期的に、「みんなの食堂」を開いている。
「こども食堂ではなく『みんなの食堂』にしたのは、そこもやっぱり、来る人を限定したくなかったから。子どもはもちろんだけど、みんなに来てもらいたいから」
みんなの食堂の運営は、すべて寄付で賄われている。
今年1月からは「みんなへの食券」という制度も始めた。3食1枚つづりで1千円。活動に賛同された人たちが購入し、みんなの食堂に来た子どもたちが利用する。イワタヤスタンドの壁面には、食券がびっしりと張り出されている。
「それで、食券を利用した子が、その裏にお礼の言葉を書いて、また壁に貼るんです。こうすることで善意の送り手と受け手が繋がることができると思うんです」
何度目かの取材の日。母親と来店していた小学生の女の子が、謙一さん、舞さんに作文を手渡していた。聞けば、区のコンクールに出すもので、テーマは「岩田屋への感謝状」だという。
〈わたしの住む街には、岩田屋商店という少し特別なお店があります。〉(原文ママ、以下同)
こんな書き出しで始まる作文。最後にはこんな一文が添えられていた。
〈「ただいま、おかえり」と言い合える場所、そんな温かい人と人のつながりがある場所、それがわたしの大好きな「岩田屋商店」です。〉
受け取るなり早速、作文に目を通していた謙一さんと舞さん。満面の笑みを浮かべた2人の目には、うっすらと光るものが見えた気がした。
(取材・文:仲本剛)
画像ページ >【写真あり】社会福祉法人の同僚だった2人(当時)だが、じつは再婚同士。現在は舞さんの長男、次男とともに4人で暮らしている(他4枚)
