昨年の4月15日に、福島第1原発から約9キロ離れた浪江町の住宅街で救助されたごん太。その体は悪性リンパ腫に侵され医師から「余命1ヶ月」と診断されたものの、その後も元気に生き続け福島復興のシンボル犬となった。しかし、今年になり病状が急変したという。

「昨年末、急激に腫瘍が肥大化し、数も一気に増えたんです。薬の量を調節して、なんとか持ち直したんですが、今年に入って、下痢や嘔吐を繰り返してます。あれほど食いしん坊だったのに、最近はドックフードをほとんど食べなくて。ごはんは以前の5分の1程度しか食べません」

動物ボランティアの玉田久美子さん(33)は、雪のなか、ごん太を散歩させながら、そう言って目を伏せた。ごん太は報道をきっかけに飼い主と再会を果たし、現在はもう1頭の被災した老犬と共に、玉田さんが福島県伊達市内のマンションで看病を続けている。

「最近、ごんちゃんは朝、部屋でうんちを漏らしてしまうことも。それだけ体調が悪いんだと思う。掃除をしていると、本当に申し訳なさそうな顔をする。『ごめんなさい』っていうごんちゃんの声が聞こえてきそうでした。私には、それがまたかわいそうで……」

現在、ごん太の内蔵に負担のかかる抗癌剤の投与は休止中。整腸剤など、緩和ケアのみの治療が続けられている。主治医の大橋敏獣医師はこう語る。

「アゴの下以外に、前胸部、脇下、それに肋骨のあたりにもしこりができています。表層だけでなく内部にもある可能性がある。過去、何頭もリンパ腫の犬を診ました。多くは1〜3カ月の間にしこりで顔の形が変わってしまったり、呼吸がおかしくなって息をひきとる。その点、ごん太さんは最初の宣告からもう7カ月。いま、こうしていられることすら奇跡。それぐらいごん太さんは、けなげに頑張ってます」

玉田さんが世話する犬たちの犬舎の隣は桃畑だ。いま、玉田さんのもとに集まる地元のボランティアたちはみな「春になったら、一緒に桃の花を見ようね」とごん太に言葉をかけている。

原発事故で様変わりしてしまった福島。それでもまた今年の春も、桃は花を咲かせるだろう。その下を歩くごん太——そんな奇跡を、誰もが願っている。

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