福島第1原発の事故から1カ月後、浪江町で保護された犬のごん太は、悪性リンパ腫に侵され、医師からは「余命1ヶ月」と診断されていた。しかし、ごん太は奇跡的に生き続け、飼い主とも再会し、福島の”復興のシンボル犬”として多くの被災者に力を与えてきた。
だが2月26日の深夜。ボランティアの玉田久美子さん(33)に看取られて、ごん太は静かに息を引き取っていた。最後の瞬間、残りわずかな体力をふり絞るように、シッポを1回振って……。
「玉田さんに礼が言いたかったんだな」と話すのは、もともとの飼い主で、現在も避難生活を続けている石沢茂さん(74)。玉田さんも「頭のいい律儀なコ。大切に育ててくれた石沢さんにすごく感謝していたはず」と語った。
ごん太が旅立った3日後。降りしきる雪の中、石沢さん一家が玉田さんのもとを訪れた。到着してすぐ、息子の佳弥さん(43)は骨壺に向かって手を合わせる。妻・昭子さん(71)は愛しそうに遺影をなでた。しかし、茂さんは、なかなか近寄ろうとしない。ふうっと息を1つ吐いて、やっと骨壺の前に座ると、目にいっぱい涙を浮かべながら言った。
「心の中で礼を言ってたんだ。この1年、あいつのがんばってる姿を見て、本当に力をもらったから。それにあのたくさんの花……。ごん太が、あんなに周りの人たちに愛されてたんだって驚いた。人の和の大切さを改めて教えてもらった気がして。ありがとな、ごん太」