「この子の顔を見ているだけで、自然と頬が緩んじゃう。幸せな気持ちになれるんですよ」と、ニュースを読むときとは別人のような柔らかな表情で、滝川クリステルさんは愛犬・アリスの顔を抱き寄せた。アリスは2~3歳の、女の子のラブラドールだ。

“ふたり”の出会いは昨年5月。東日本大震災の被災犬であるアリスは、福島第一原発からほど近い浪江町の警戒区域で保護された。いっぽうの滝川さんは、以前から保健所で殺処分される犬たちの存在に心を痛めていた。いずれそういう境遇の犬を引き取るため、散歩に適した公園の近くに引っ越し、犬と暮す環境を整えていたところだった。

「今、苦しんでる子を救いたいという思いが、震災でさらに強くなって。後先考える間もなく、旧知のボランティアさんに連絡していました。『被災犬、どんな子でも預かります』と」

こうして、滝川家にやってきたのがアリスだった。当初は、本当の飼い主が見つかるまでの3カ月間、”一時預かりボランティア”をする予定だった。滝川家ではずっと犬を飼っていたが、彼女ひとりで犬を飼うのは初めて。それも大型犬とあって、最初はたいへんで、よく家の中のモノを壊されたという。笑顔で振り返る滝川さんだが、当時のアリスは決して可愛いばかりの存在ではなかった。

「最初はちょっと怖かったですね。目もつり上がってピリピリしていたし、呼んでもぜんぜん来ないし。あるとき、福島の映像が流れているテレビを、この子、ジーッと見てたんです。そして、寂しそうに遠吠えして。つらいんだな、本当は故郷に帰りたいんだなって思ったら、私もいっしょに泣いてしまって……」

それでも”ふたり”はゆっくりと信頼関係を築き、アリスの表情もだんだんと柔和になっていった。そして、約束の3カ月が過ぎたころ、ボランティア団体から「本当の飼い主が見つかった」という連絡を受ける。しかし、避難生活を余儀なくされている飼い主は、アリスを放棄する決意を告げた。この後、正式にアリスを引き取った滝川さんは、アリスの食事までに帰宅できるよう仕事を調整し、1日1時間は散歩する生活を続けている。

「正直、犬を”途中”から引き取るのはたいへんです。でも、子犬のときから育てるのとは、まったく別の喜びもある。だんだんと心を開いてくれているのを感じたときのうれしさは、得がたいものですね。私自身も変わりました。”このコが私のかけがえのない存在であるように、私もアリスにとってかけがえのない存在でありたい”と思うんですよ。放棄犬を引き取ることは、飼い主自身を成長させてくれる。最近は、すごくいろんな人に『変わったね』と言われるんです。アリスのおかげ、ですね(笑)」

【被災犬を保護したい方へ】アリスを保護したボランティア団体『ARK』のシェルターでは、現在も福島の被災犬23頭が暮らしています。関心を持たれた方は『ARK』のホームページ(http://www.arkbark.net)を御覧ください。

関連タグ: