「今年4月、親戚に『桜がきれいだから』と誘われて、家族で隅田川へ花見に行ったのですが、義父は車から降りようとしなかったんですよ。自分の痩せた姿を人前にさらしたくないという気持ちが強かったようです。お見舞いにはどなたも訪れていませんが、高倉さんにだけは入院のことは知らせていたようです」

 そう話すのは、長女・菜穂さんの夫で演出家の山下悟さん(57)。10月2日、名優・大滝秀治さん(享年87歳)が肺扁平上皮がんのため都内の自宅で亡くなった。大滝さんのがんが発覚したのは、今年2月。入退院を繰り返し、9月7日に自宅に戻ってからは亡くなるまで家族に囲まれて過ごした。

 そんな大滝さんの体調異変を知る数少ない仲間のひとりが、高倉健(81)だった。
 2人は74年の『宿無』で初共演。『八甲田山』(77年)、『あ・うん』(89年)など数々の映画で共演し、大滝さんの遺作となった映画『あなたへ』でも共演した。

昨年11月、長崎県平戸市でのロケ。主人公(高倉)が亡き妻の骨を船から海にまき、港に戻ると猟師を演じる大滝さんが「久しぶりに、きれいな海ば見た」と話すこのひと言に高倉は目を潤ませ、収録後、ハンカチで涙を拭いた。「台本を読んだときはつまらない台詞だと思ったが、話す人が話すと、こんなに変わるんだなと思った」と振り返り、大滝さんの演技力に感服したという。

 いっぽう大滝さんにとっても、高倉は特別な存在だったと山下さんは力説する。
「高倉さんから最初のお手紙をいただいたのは、義父が入院した今年の2月。亡くなる直前まで続いていました。義父は俳優としては信じられないくらい人見知りで、他人と話すのが決して得意なほうではありません。高倉さんは自分とは違う、“スター”だと思っていて、憧れのスターとして話かけることもなく、遠くから見ていただけなのかもしれません」

 現場で直接話すことがなかったぶん、手紙のやりとりは何度も続いたという。
「高倉さんとはかなり頻繁にやりとりしていたようです。健さんからの手紙は闘病生活の励みになっていたと思います。健さんから送っていただいた手紙は2人に悪い気がして、まだ家族も開けて見ていないんです」

 最初の手紙の内容は、やはり高倉が涙した大滝さんのセリフについてだったそうだ。
「義父のセリフを褒める内容でした。義父は『あのセリフをあそこまで評価してくれて』と驚きと感動が入り交じっていて。そのお礼をしたためた返事を書いて、やりとりが始まったのです」

 しかし、このときはまだ、がんのことは打ち明けていなかったと山下さんは話す。
「健さんは義父を気遣い、お見舞いのお花を何回も贈ってくださっていたんです。そんな気遣いに義父も余計な心配をかけてはいけないと思っていたようです。後で聞いた話ですが健さんとは電話でもやりとりをしていたそうですよ」

 生涯最後の手紙も、宛先は高倉だった。
「その手紙を送ったのは義父が亡くなる4~5日前だったと思います。伝え聞いた話では、手紙を読んだ高倉さんも、様子がおかしいなということに気づき、心配していたそうで、連絡を取ろうとしたところ、訃報を知ったそうです」
 高倉健も涙した大滝さんの役者魂は、永遠に人々の記憶に刻み込まれるはずだ。

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