「週刊朝日との勝負を決定づけた18日の会見は、弁護士として相手を論破しつづけてきた橋下氏の、論戦術の集大成といえるでしょう」
こう語るのは、『超訳 橋下徹の言葉』の著者である濱田浩一郎氏(姫路獨協大学講師)だ。『週刊朝日』(朝日新聞出版)誌上で始まったノンフィクションライター佐野眞一氏による連載『ハシシタ 奴の本性』をめぐる反論会見。1時間以上にわたる会見で、橋下氏はどうやって自分の意見を通していったのか。そこには5つのテクニックがあったと濱田氏は語る。
1【ありえない比喩を効果的に使う】
勝負を決定づけたもっとも大きなポイントは、会見後半でナチスの話を出したことだという。「ナチスは民族の純血主義者で、ユダヤ人という一点で民族を絶滅させようとした。橋下氏はこれをうまく使い、世界的非難をあびた問題と同一視させたわけです。まさか会見でホロコーストが登場するとは、誰も思わなかったでしょう」
2【まずは相手の攻撃を遮断する】
「血脈の話は、以前にも週刊文春や週刊新潮が似たような記事を書いてます。そのときも、橋下氏はツイッターで徹底的に反論した。前回も今回も『僕はともかく、子供たちはどうなる』という言い方をしています。誰も言い返せない話をすることで、それ以上の攻撃をくい止められる。相手の攻撃を遮断したところで、話を自分のペースにもっていく巧みな戦法です」
3【交渉の最初の段階では、相手の言い分をしっかり聞く】
「橋下氏は、相手がどんなに一方的な主張をしたとしても常にその内容をきちんと聞いています。今回も朝日新聞記者に質問を投げかけ、ちゃんと言い分を言わせている。これは感情的ではなく、自分が冷静な議論をしていると見せるのに有効です。そして、相手の意見を確認することで、あとで言い逃れの機会を与えない、きわめてうまい方法です」
4【脅しと無理難題をうまく使う】
「橋下氏は、かつてセクハラ裁判の弁護をしたとき、セクハラの詳細を事細かに訴状に書いて裁判所に提出すると相手の弁護士に迫ったそうです。訴えられた側は議員でしたから、もしセクハラの詳細が暴かれると、まったくメンツが立たなくなってしまう。それで示談交渉が迅速に進んだそうです。今回も、親会社の朝日新聞に対し、取材を拒否するという脅しをかけている。子会社に対し、出資をやめろという無理難題も相手の勢いをくじくのに有効です」
5【相手に悪の烙印を押す】
「橋下氏は会見冒頭で『被差別部落についてどこまで勉強したのか、はっきり言って無知の集団だと思っている』と発言しています。『無知の集団』というのはメディアにとって致命的な烙印です。その後も、『ルール無視』『取材内容のたれ流し』『不法団体』などと似たような言葉を列挙することで、朝日=悪というイメージの刷り込みに成功しています」