「ずっと私のなかで”人間ってなんだろう”というのがテーマにありました。私にとって演技をすることは”人間とは何か”というものをアウトプットするものでした。今の仕事もこのテーマを突き詰めていくものと考えているので、私にすれば演技をすることも、この仕事をすることも同じことなんです」

そう話すのは現在、精神保健福祉士として働く高部知子(45)。彼女が、突如巻き込まれた芸能スキャンダル。”虚”の自分が世の中で独り歩きしていき”実”の自分が消されていく恐怖と理不尽に、わずか15歳でさらされた彼女。あれから30年、人よりも若くして多くを経験しなくてはならなかった少女は心の専門家になっていた。

精神保健福祉士とは、1997年に誕生した国家資格で、精神障害者の抱える生活問題や社会問題解決のための援助、社会参加に向けての支援をするソーシャルワーカー。彼女は青山心理臨床センターの精神病理学の研究所で4年間学び、さらに人間の深い部分を学べるのではないかと考え、慶應義塾大学の哲学科に入学した。

「古いギリシャ哲学や仏教哲学を学びましたが、何かわかりそうな気がするけど、わかったところで何になるんだろうという思いがずっとあって……。悩んでいたときに、精神保健福祉法が制定されたんです。私の目指していたものはこれかなって思いました」

大学卒業後、専門学校に入り、2009年1月、国家試験に合格し資格を取得した。心理的分野には、精神科医と臨床心理士と精神保健福祉士があり、精神科医は基本的に病院のなかで、薬物を用いた治療を行い、臨床心理士は認知のゆがみを探ってそれを改善していく。精神保健福祉士はそのどちらでもなく、精神に問題を抱えた人に寄り添い続ける。

高部は、1967年、東京都文京区向丘生まれ。中学1年の’80年、NHKドラマ『ガラスのうさぎ』でデビュー。’82年には『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(テレビ朝日系)で萩本家の3姉妹の長女・のぞみ役として出演、一躍人気アイドルとなった。翌’83年、家族崩壊を描いた話題作『積木くずし〜親と子の200日戦争〜』(TBS系)で不良少女を熱演。最終回には45%以上の驚異的な視聴率となった。そんな折、いわゆる『ニャンニャン騒動』が起こる。

’83年6年、高部が肩をあらわにした姿でベッドに横たわり、たばこを持っている写真が写真週刊誌『FOCUS』(新潮社)に掲載され大騒ぎとなる。彼女は次第に、役として演じているはずの虚像が、いつのまに世間からは実像になっていく恐さを感じ、芸能界を離れ、勉強に打ち込んだ。

「私はあの騒動があって、激流から別の島に流されたけど、その地で培ったものが今の私を作ってくれた。もしあのまま芸能界だけにいたら、きっと精神的にかなりつらかったと思います。精神病理学を学ぶなかで自分を分析してそう思いました」