4月10日放送の『めしばな刑事タチバナ』(テレビ東京系・毎週水曜23時58分)で、初のキー局ドラマ主演を果たす佐藤二朗(43)。人生の節目ではまず、役者になることを考え、行き先を選択したという。そのいっぽうで「役者で飯は食っていけないかも」という思いも、つねに頭をもたげた。
「就職先は、東京勤務のマスコミを狙って、広告関連会社に入りました。大きな会社でしたが、入社式の雰囲気にあまりにも違和感があって。ひとりで会場を出て、そのまま実家に帰っちゃったんですよ(笑)。人事部長から『入社日と退社日が同じなのは、君が初めてだ』と言われました」(佐藤二朗・以下同)
せっかく入った会社を1日で辞め、迷いが吹っ切れた佐藤は、数多くの名優を輩出してきた俳優養成所に入所。だが、1年後の入団試験に落ち、別の劇団に入るも、そこも1年で辞めてしまう。「2年やって、ものにならなかったんだから役者は諦めよう」と決め、またサラリーマンに逆戻り。
小さな広告代店に再就職し、営業として朝から晩まで働いた。結果、部署トップの成績を残したものの、やはり俳優への思いを捨てきることができず、ついに仲間とともに演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げする。多忙なサラリーマン生活のかたわらで脚本を書き、週末には稽古に打ち込んだ。
「本当に、20代は行ったり来たり。あのころには二度と戻りたくない。ず~っと曇り空だった。人はよく『苦節何年……でも、面白かった』と言うけど、俺には、苦節は苦節でしかなかったなぁ」
その後、演出家の鈴木裕美に誘われ、「自転車キンクリート」に入団。そして30代のとき、大きなチャンスが訪れた。佐藤の舞台を観て、堤幸彦監督がドラマ『ブラック・ジャック』(本木雅弘主演・TBS系)に抜擢したのだ。この作品以降、映画、テレビに呼ばれるようになり、’04年、竹野内豊主演の『人間の証明』(フジテレビ系)では刑事役に選ばれた。
「大杉漣、松坂慶子、緒形拳……大スターが大勢出演していました。当時の俺はといえば、役者でそれなりに食えるようになっていたけど、まだまだ顔を知られていなかった。だから、それを逆手に取って、素人のような芝居に挑戦したんです。『もしかしたら、この人は本物の刑事かも?』と思ってもらえるように、わざと下手な芝居をやってみせました」
現場は騒然。でも、河毛俊作監督の「好きにやらせてやれ」の一言で、佐藤はそのままの芝居を続けた。
「ドラマの打ち上げで、監督から『この作品でいちばんの収穫はお前だ』と言われたときはうれしかったですね。今もずっと、あのときの感覚を大事にしています。視聴者に『この人は本物の〇〇かも』って思われるようにね」