カリスマ造形師・アイアン澤田氏(41)をご存知だろうか?彼の作品(フィギュア)はその大半がオークションに出品され、100万円超へと値が釣り上がる。巨匠漫画家から映画監督、一般ファンまでを虜にするのはフィギュアが醸し出す、削ぎ落とされた肉体美・奇跡のエロティシズムだ。その肌の質感と表情の繊細さは、いまにも脈打つような息吹を感じさせる。

「(作品の)仕上げの1週間に入ると、もう誰とも会いません。数日間は口を開くこともない。ただひたすら作品と向き合っていくのみです。作品を手放すときに寂しくないのかとよく聞かれます。正直、そういった感情はまったくない。むしろ、買ってくださった方に喜んでもらえたのか、そして次はどうするのか、といったことしか頭にありません」(澤田氏)

 特殊メーキャップの仕事をしていた澤田氏が独立した後、フィギュアの制作を始めたのは’04年のこと。生活費に困っていた彼を見かねた友人が、作った作品をネット・オークションに出品したらどうかと勧めたのだ。

 最初の作品は6万円で売れた。そして2作品目には12万円の値がついた。現金が手に入ったという喜びが、俄然彼の創作意欲に火をつける。3作品目では睫毛を植え、当時は難しいといわれていたショートカットの髪にカールをかけることに成功。肌の色むら、血管、ホクロまでにこだわった。その結果、作品はオークションで50万円を超える値をつけた。

「買ってくださった方が、とても満足していますと連絡をくれました。ただ、ところどころに黒いゴミがついていますよと(笑)。ホクロと思ってもらえなかったんです」(澤田氏)

 評価が高まり、オーダーの仕事も来るようになった。そして、今年3月に制作した作品『Sword Silver(ソード・シルバー)』は、なんと135万円で落札。落札者は、澤田氏の熱烈なサポーターで名作漫画『GANTZ』作者の奥浩哉氏だった。

「オークションで『Sword Silver』を見つけたときは、『是が非でも手に入れたい』と思いました。しかし、最後まで競り合った方がなかなか諦めてくれなくて。僕は絶対に手に入れるつもりだったので、200万円を超えても降りるつもりはなかった。写真だけでも十分美しかったが、実物はそれ以上でした。細部へのこだわりは世界トップクラスの造形師を凌駕しています」(奥氏)

 澤田氏にはいつか果たしてみたい夢がある。「古代ギリシャの彫刻のような造形物と、自分がどこまで勝負できるのか」。そう語る彼の研ぎ澄まされた眼差しは、誰も踏み入れたことのない領域を見つめているーー。

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