「ステージと違って、あこがれのスターと距離が極めて近い。しかも人数限定で、人気歌手になればなるほどチケットが入手しにくい。その席に座れるのというのがディナーショーのステータスです」
こう語るのは、芸能評論家の石川敏男さん。これから年末にかけて、全国のホテルでディナーショーが催される。石川さんが、ここ10年のディナーショーの顔として挙げるのは、五木ひろしと松田聖子。
「2人は対照的なんです。五木さんは500人規模の狭い会場。彼のファンは富裕層の夫人が多いので、近さで満足させる気配り。チケット代は名前にちなんで5万円。逆に聖子さんは1000人規模の大会場で少しでも多くのファンが来られるように配慮。彼女のディナーショーを毎年見たいというファンの気持ちに応えている。高額なチケット代を払ってもお得感がある。それが2人が長い間ディナーショーのトップにいる秘密なのではないでしょうか」(石川さん)
そもそもコンサートとディナーショーはどこが違うのか。毎年、40〜50本のディナーショーを手掛ける企画制作会社「プロデュース・コーバ」の増屋健一さんに聞いてみた。
「まずディナーショーは1都市1ホテル開催が原則。人気があっても、ホテルを替えてやることはありません。先に食事をすませ、ショーは70〜80分が一般的。コンサートの3〜6倍のチケット代を払うお客さんを満足させるのは大変です。演歌なら一人一人の席を回るラウンドが必須。歌謡ポップス系の歌手でも半分くらいの人はラウンドしています」
また、コンサートの演目が最新アルバム中心だとしたら、ディナーショーの選曲はヒット曲のオンパレードだという。
「それも毎回アレンジを変えるなど、一度きりしか聴けないような工夫をしないと、翌年誰も来てくれなくなります」
そんな増屋さんが何度見ても飽きないと感心するのは、郷ひろみだそう。
「とにかく毎年演出が全く違うんです。ステージが会場の真ん中にあったり、Tの字形だったり。ヒット曲をジャズ風アレンジで聞かせたこともありました。衣装の豪華さでは石川さゆり。惜しげもなく豪華な着物を次々着替えて見せてくれる。今は休養中ですが、中森明菜はトークのおもしろさが印象的でした」