NHKの朝の連続テレビ小説『花子とアン』で、ヒロイン・はなの母親・ふじを演じている室井滋。彼女は、伊原剛志が演じる夫・吉平と娘・はなの親子関についてこう語る。

「吉平と、はな父子を見ていると、亡くなった父と私の関係を思い出します」

ドラマの吉平は花子を女学校に行かせるため奔走する教育熱心な理想家。だが反面、貧しい一家の大黒柱でありながら数年間も家に帰らず、浮気騒動を起こす自由奔放な人物だ。

「私の生家は”室井家”の本家で、父は9代目の跡取り。父は早稲田大学在学中に書いた小説が『早稲田文学』に掲載されたりして、作家としての将来を嘱望されていたそうです。でも祖父が病に倒れて。跡取りの父は家業の荒物問屋を継ぐため富山に戻りましたが、家業は私の祖母に任せて高校の英語の先生に。その後、富山で結婚して生まれたのが私です」

だが父親は郷里で教師として生活することに飽き足らず、再び小説家を目指したという。

「家で塾を開いたり母の実家である薬の製造会社から薬を仕入れて行商したり、小説を書くために何日も取材旅行に出かけたりしていました。まさに吉平そっくり(笑)。東京の出版社へ小説を持ち込んでいましたが、うまくいかなかったみたいで。だんだん酒量が増えて母とうまくいかなくなり、私が小学校高学年のときに両親は離婚することになりました」

両親が離婚後、彼女は自ら父との生活を選んだ。だが、父の奔放な生活が改まることはなかった。彼女はそんな父を郷里に残し、女優を目指して早稲田大学に進学する。

「私が大学に入ってからも父は執筆を続けていましたが、酒で体を壊して肝硬変に。それでも300万か、400万円近いお金を持って上京しては、1週間毎日毎日、競艇や競輪に通っていました。私は『もういい加減にしたら!』と怒って……。亡くなる前日は、風邪気味の父にマフラーを買って首に巻いてあげて新宿駅で別れました。それが今生の別れでした。翌朝、親戚から電話で『お父さんが亡くなった』と。頭の中が空っぽになりましたね」

そんな父親に対し、彼女はいまでも感謝の念を捧げ続けているという。

「富山の田舎で生まれ育った私が女優になったのは、父のおかげ。私が書く真似事をするようになったのは父が小説を書いていたからだと思うし、私が初めて出版したエッセイが100万部以上売れたのは父があの世から援護してくれたからだと思っています」

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