「いま父に伝えたいこと? いっぱいありますよ。芝居のことや、自分のことももちろんですが……強いてひとつあげるなら、やっぱり僕の子供たち、七緒八と哲之のことかな」

 中村勘九郎(33)はここまで言って、フッと笑みを漏らした。

 今月1日、平成中村座公演「陽春大歌舞伎~十八世中村勘三郎を偲んで」が東京・浅草寺境内の仮設劇場で初日を迎えた。2012年に急逝した中村勘三郎(享年57)が生前、追い続けた夢の芝居小屋が、ゆかりの地・浅草に帰って来たのだ。

 座元を務める勘九郎は、次のように続けた。

「ふだんの息子たち2人のことを、父に見せたい。兄弟そろって芝居が好きでしょうがないみたいで。なにかというと刀、持ち出して立ち回りごっこ。こっちは芝居して疲れて帰ってきてるのに『芝居やろ、芝居やろ』って。
 2人を見てるとね、不思議な気分になる。ぼくと七之助も、父の前でこうだったのかな、とかね。だから、余計に父に見てもらいたいと思うんです」

 一方、弟・中村七之助(31)は「父の芝居をもう一度見たい」と力を込める。

「父は魂で演じる役者。どんな役でも、父が演じた人物は、本当にいまを生きているように見えた。一緒に舞台に立ったとき、父の目を見ただけで、グッと芝居の世界に引き込まれたものです。いま思うと、それは父が未熟な僕に手を差し伸べてくれていたんだろうなって。もし、願いが叶うのなら、父の芝居を、あの父の目を、もう一度見たい」

 そして、この4月。平成中村座の復活とときを同じくして、中村屋親子3人それぞれの、3冊の写真集が刊行された。撮影は写真家・篠山紀信氏。

 刷り上がったばかりの写真集のなか、在りし日の父の姿を見つめながら、勘九郎は「いつも話してくれた言葉を思い出す」と話す。

「目が生きてないといけないよ――そんな、父の言葉が聞こえてくるようです。『どんな役でも目が大事なんだ』と父はいつも教えてくれました。その言葉どおり力強く、輝く父の目を、改めてぜひ、見ていただきたいです」

 写真集を見て、七之助はため息を漏らした。

「やっぱり、父の芝居は、写真で見てもすごい。見た目の美しさはもちろんのこと、内面からにじみ出て来る色気が、写真1つ1つからも感じられるんです」

 その死から3年。浅草に平成中村座が復活した今年、タブロイドサイズという超大判、さながら”平成の大首絵”で、勘三郎もまた甦ったのだ。

『十八代目中村勘三郎』『六代目中村勘九郎』『二代目中村七之助』写真集(全撮影・篠山紀信)光文社より3冊同時刊行。すべて未発表写真!

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