今年は、新派の大御所で人間国宝でもあった“不世出の名優”花柳章太郎が亡くなって50年。だが没後50年、ずっと空いたままになっている大名跡『花柳章太郎』をめぐって、騒動が勃発しているという。話すのは、花柳家の関係者の1人だ。

「2月頭に、松竹のプロデューサーが、花柳の孫夫婦の自宅を訪れたのです。そこで彼は、“ある役者に『花柳章太郎』の名跡を継がせたいと思っている。ぜひご遺族に、お許しいただきたい”と話しました。その役者の名前を聞いた遺族たちは、驚いてしまったのです」

 二代目にと聞かされたのは、なんと人気歌舞伎役者の市川春猿(44)の名前だった。一般家庭からの梨園入りというハンデを乗り越えて、人気女形に登りつめた実力派だが、そもそも新派の役者でもない。遺族があっけにとられたのも当然だった。

「プロデューサーからは、『春猿は歌舞伎界を去って、正式に新派に移り、骨を埋める意気込みです』という話もありました」(前出・花柳家関係者)

 人気歌舞伎役者が、歌舞伎界を辞めて新派に移籍する。事実なら、それ自体が演劇界を揺るがす大事件だ。人気低迷と後継者不足に苦しむ新派は将来的な存続も危ぶまれている。

「春猿が歌舞伎を辞めて“二代目花柳章太郎”を襲名するとなれば、話題づくりには持ってこい。何とか新派を次の世代につなげたいという愛情から出てきた、苦肉の策だったのでしょう」(新派関係者)

 だが熟慮の末に、花柳家の遺族たちは、松竹からの“二代目”襲名の申し出を断った。

「遺族間で話し合って、『花柳章太郎という名前は、永遠に初代ひとりのもの。どうか、一代限りにしてやっていただきたい』と返事したそうです。遺族の中には、『50年も経って、いまさら商売に使おうというのか』と激怒した者もいました」(前出・花柳家関係者)

 別の新派関係者もこう言う。

「たしかに、そういう動きがあったことは聞いています。ただ、二代目襲名が頓挫したことで、春猿さんの新派移籍自体、このまま話はなくなってしまうでしょうね。春猿さんも途方にくれているかもしれません」

 本誌は松竹に取材を申しこんだが、春猿の新派入りや花柳章太郎の二代目襲名について「そのようなお話をさせていただいたこともなく、まったく事実ではありません」と否定するのみだった。大名跡を巡る浮世の争いを鬼籍に入った人間国宝はどう眺めているのか。

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