戦後70年を迎えた被爆地・長崎では『瀬戸内寂聴展~これからを生きるあなたへ~』(長崎新聞社主催)が開催されている。7月25日初日の午後には、長崎プリックホールで、寂聴さん(93)と親交があり、長崎市出身の美輪明宏さん(80)とのトークショーが行われた。
瀬戸内寂聴(以下=寂聴)「今日はここに、生きた観音様がおいでくださっています」
(美輪明宏さんが壇上に登場)
美輪明宏(以下=美輪)「長崎の皆様、ごきげんよう。私が、ただいまご紹介にあずかりました……仲間由紀恵でございます」(会場・爆笑)※仲間由紀恵はNHK朝ドラ『花子とアン』に出演。同ドラマで美輪さんはナレーションを担当している
寂聴「冥土の土産と言いますけど、私は、この世で生きた間に、たくさんのすばらしい人たちとお付き合いしたんです。これが、すごい(あの世への)お土産だと思います。雑誌のインタビュアーとして、美輪さんのお宅に伺ったこともありましたね」
美輪「そうです。ちょうど『ヨイトマケの唄』がヒットしたころでしたね」
寂聴「お部屋の真ん中に天蓋付のダブルベッドが、どんとある。鏡台は割合小ちゃいの。その上に化粧品がずらっと並んでるのね。『ああ、こんな小ちゃい鏡台から、あんな美しい人が生まれるんだ』と、思って私はつくづく眺めたんですよ」
美輪「まあ、よく細かいところまで覚えていて」
寂聴「鏡を見て、人よりも美しいと自覚したのはお幾つのときですか?」
美輪「小さいころに『かわいい、かわいい』って言われていて、中学に上がる辺から、『かわいい』じゃなく『きれいだ』って言われるようになったんです。でも、あんまり言われてると、ありがたみとか実感がないんですね」
寂聴「うん、うん(笑顔で頷く)」
美輪「でも、この世には『正負の法則』というものがあります。ものすごくきれいな人は、それだけのものすごいツケが来る。クレオパトラは毒蛇に胸をかませて自殺。楊貴妃は兵士絞め殺された。小野小町は行方不明でのたれ死に……。あまりにも美しいとそういうことになるんで、『どうにか見られなくもないかな』という程度の、ちょうど(会場に向かって)皆さんぐらいのほうが、平和な人生を送れるんです。良かったですね、皆さん。神様に感謝してください」(会場・爆笑)
寂聴「美輪さんは美しく生まれたからね、こういうことをおっしゃるの(笑)。私は物心ついたときに鼻が低い、色も黒いってことがわかったの。もう、それが悔しくてね、昔の洗濯ばさみは木製でした。夜寝るとき、人に気付かれないように、それで鼻筋を挟んでた」
美輪「でもね、私は男だか女だかわかんないでしょ。戦前・戦中の軍国主義の世の中だから、美しい着物着ていたら『何だおまえ!女の腐ったみたいな顔しやがって』って警察に引っ張られて、モンペにはきかえさせられました。そういういじめも、たくさん受けましたよ」
寂聴「美しく生まれたことで損をしたとお思いのいっぽうで、美しく生まれたために得をした自分もいる、幸せだと思ったこともおありでしょ」
美輪「『正負の法則』ですから、それはあります。私はいろんな人を見てきましたけど、美しい人っていうのは激しい落差というものが必ず来る。これは怖いです」
寂聴「ハハハ!」
美輪「久しぶりに同窓会の通知が来たとしますね。“A君も、B君も、C君も私にラブレターをくれた。そうだ、久しぶりにブイブイいわせてやりましょう”と。勝負下着も着て、ペンキみたいに厚塗りの化粧をして、賛美のまなざしを期待して会場に乗り付けたら、賛美どころか“驚愕のまなざし”で見られる。悔しくて家に帰っても夜もろくろく眠れません……。でも、若いときからそうでない人は平気よ(笑)。同窓会場に行きます。『やあ、しばらくだね。元気してる?ちっとも変わんないね』って。良かったですね、皆さん!」(会場・爆笑)