「僕の役・野村はね、性欲が強いのに、定年で教職を離れてから性的不能の兆しが。20歳年下の後妻の雪子に気持ちはあるのに体が追いつかない。かたや雪子のほうは“ざまぁみろ!今まで受けた屈辱に復讐できる”と(笑)。不思議な岩松ワールドに迷い込んでいます」
そう語るのは、現在、舞台『家庭内失踪』に出演中の風間杜夫(66)。作・演出は岩松了、後妻役を小泉今日子が演じる。物語は夫婦の寝室シーンから始まる。小野ゆり子が演じる前妻との娘・かすみは、夫と関係がギクシャクすると実家に帰ってくる。そこへ、かすみの夫の命令でかすみを連れ戻しに部下が来る。さらに変装した男・望月が野村を訪ねて来て……。
「登場人物のそれぞれに思惑があるんですが、ストレートに描かないで会話で見せていくんです。だから、どうにでも解釈できる面白さがある。野村は深い愛情を1点に集中させてしまって、分散できないのが悩み。性格なんだからしょうがないのに、そんな自分が厄介なんです」
今回、舞台のキーワードは夫婦の“倦怠期”だという。
「僕の場合、女房に飽きることも疎ましく思ったこともないですね。かわいい孫たちに囲まれて、『こんな年齢になっちゃったか』なんて言い合っています。そうやって『いい人生だったな』と、振り返ることができれば幸せな結婚生活ですよ。夫婦関係は持続してこそ味わいを実感できるとしみじみ思います」
作中の望月は、妻に失踪したと思い込ませて自宅近くのアパートに住み、自分の帰りを待つ妻を眺め続けて5年。
「望月みたいに失踪を装ってみたい願望はありますねぇ。このあいだ中国に、自分が死んだらどれほどの人が集まってくれるか試すために嘘の葬式をして、参列者を観察した人がいましたね。来ると思い込んでいた人が来なくて落ち込んでいたらしいですよ(笑)」