ロックバンド「LUNA SEA」「X JAPAN」のギタリストとして知られるSUGIZO(49)が10月13日、中東のパレスチナ自治区で初のライブを開催した。

 

SUGIZOが「20年前からパレスチナを訪れたいと思っていた。夢がかなった」と英語で語ると、大きな拍手がわいた。自身の曲のほか、バイオリンでアラブの民族音楽も演奏し、鑑賞した数百人のパレスチナ人からは大きな歓声が上がった。

 

環境保護、脱原発、被災地ボランティアと、20年にわたり数々の社会問題に取り組んできたSUGIZO。「立場や境遇で人の価値は決まらない」という信念のもとパレスチナ問題にも関心を持ったという。翌日には難民キャンプを訪問し、パレスチナ難民の子どもたちに演奏を披露した。

 

「いまや国際社会では、パレスチナ問題の根源が何だったのか、完全に忘却してしまったかのような不正義がまかり通っています。そのような状況で、SUGIZOさんの行動は大きな意味を持つと思います」

 

京都大学教授で、長年にわたりパレスチナ問題に関わってきた現代アラブ文学研究者、岡真理さんはそう語る。

 

「そもそもパレスチナ難民が生まれた原因は、パレスチナの土地を分割し、そこにヨーロッパのユダヤ人のための国家を建国するという1947年の国連決議にあります。その結果、集団虐殺と暴力的な追放によってイスラエルが建国され、多数の難民が生まれました。アメリカをはじめとする分割決議に賛同した国々は、パレスチナ問題に多大な責任を負っています。しかしトランプ政権は8月31日、パレスチナ難民への援助を完全停止すると表明しました。その責任を忘却したかのような振る舞いです」

 

トランプ政権はすでに1月、パレスチナ難民を支援するUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出を凍結している。その結果UNRWAは深刻な資金不足に陥っていると岡教授は言う。

 

「学校運営や医療さえも成り立たず、生活は危機的状況です。パレスチナ“自治区”とは名ばかりで、ヨルダン川西岸地区はいまだに実質的にイスラエルの軍事占領下にあり、人々の移動もままなりません。パレスチナ人は単なる貧困だけではなく、アパルトヘイト時代の南アフリカ以上の抑圧下に置かれているのです。いまだに日本では“イスラームとユダヤの宗教対立”と語られがちですが、宗教は関係ありません。パレスチナ問題の本質は、イスラエルという国家によって、パレスチナ人の生命、人権、そして人間の尊厳が踏みにじられ続けていることなのです」

 

SUGIZOは’16年3月、シリア人が生活するヨルダンの難民キャンプを訪問。その際にバイオリンの演奏を披露したところ、人々は抑えていた感情を解放し、輝いた表情で踊り騒いだ。この体験を機に、音楽を通じた難民支援の重要性を認識したという。

 

「音楽をはじめとする芸術は人間の尊厳にかかわるものであり、その根幹に訴えかけるものではないでしょうか。パレスチナ人はまさに、尊厳を踏みにじるイスラエルという国家と闘っている。SUGIZOさんの試みは“チャリティー”だとか“希望を与えた”といった単純な言葉で表せるものではないと思います。人間として、パレスチナ人の置かれている状況に共感する強い思いがあったからこそ行動されたのだと感じました」(岡教授)

 

パレスチナは、今回SUGIZOが訪れた「ヨルダン川西岸」と、地中海に面した「ガザ」という2つの地区に分断されている。種子島とほぼ同じ面積に約200万人が居住するガザはいま「世界最大の野外監獄」と呼ぶべき状況だと岡教授は語る。

 

「イスラエルが’07年にガザを封鎖して以来、物資や人間の出入りが禁じられた状態です。燃料不足で工場がまともに稼働せず、若者の失業率は60%。乳幼児の過半数は栄養失調で、ほとんどの家庭に安全な飲み水さえ供給されていません。そのような状況下で、イスラーム教では禁じられている自殺が急増しています。ガザで生きることがもはや地獄といっていい状況なのです」

 

ガザでは今年の3月30日からずっと『帰還の大行進』と呼ばれる抗議行動が続いている。しかし、日本の報道で取り上げられたのは5月14日、アメリカ大使館のエルサレム移転のタイミングだけ。ガザの「完全封鎖」という事態はほとんど伝わっていない。

 

「現在、外国人がガザに入るのは極めて困難です。それでもSUGIZOさん、そしてパレスチナに共感するすべてのアーティストの方々に、ガザのために演奏し、歌ってほしい……。切実にそう願います」