9月8日に放送されたドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)の最終回は最高視聴率19.4%を記録。有終の美を飾った。なかでも、息子の異常性を世間から隠すため監禁する母親という“狂気の怪演”でドラマを盛り上げたのが木村多江(48)だった。
「穏やかな奥さんが豹変するという難しい役どころでした。穏やかな一面については、本番当日でもチェックを入れた台本を読み直し、役作りを確認していました。しかし狂気の一面である“人をあやめよう”という心情を表すシーンについては、あまりリハーサルをしないようにしていたと聞いています。それは“本番で全力を出し切れるように、それまでは感情を秘めておくようにしたい”と木村さんが考えていたからだそうです」(ドラマ関係者)
9月初旬の昼下がり、そんな木村を本誌は都内で目撃した。この日はオフのようで、大通りをゆったりと歩く木村。すっぴんに大きな帽子をかぶり、青のトップスに水色のスカートという爽やかな服装。ドラマの役柄とはまったく違う明るい表情で日傘を手に、タクシーを止めて去っていった。
05年に会社員の男性と結婚し、08年に女児を出産。これまで、公私ともに順風満帆に見える木村。だが、実は彼女は最近の女性誌で3年前にあった“異変”を告白していた――。
《疲れすぎていたのはわかっていたけれど、笑えなくなって人と目を合わせられないほどに。これは致命的だと思いました》(『家庭画報』19年7月号)
ドラマと映画の撮影が重なる過密スケジュールに追われ、心身の不調に見舞われたというのだ。彼女の元来の気質はとても内向的だったと、古くから木村を知る関係者も言う。
「木村さんが演劇を始めたのは、中学生のとき。幼いころから他人とコミュニケーションを取るのが苦手な性格だったので、その弱点を克服するためにあえてお芝居をやってみようとしたそうです。本心を人に伝えたくても、うまく口にできない。引っ込み思案で無口な少女時代だったといいます」
木村は3年前に突如起こった“異変”の原因を知ろうと、さまざまな本を片っ端から読んだ結果、“脳疲労”が原因だと気付いたという。木村を襲った“脳疲労”とは、どんなものなのか。その概念を30年前に提唱した第一人者で九州大学の藤野武彦名誉教授は言う。
「脳疲労とは、簡単に言うと“脳が疲れた状態”を指します。原因は、情報が多すぎて情報処理装置である脳が疲れてしまうこと。発症のきっかけは“仕事が多すぎる”“人間関係がうまくいかない”この2つが圧倒的に多いです。木村さんが訴えた『笑顔がない』という症状は、まさに中枢神経が疲れていたということです。脳が疲れると自律神経が乱れ、心身にいろいろな異常が出てしまう。この脳疲労は、特に50歳前後の更年期世代の女性に起こりやすいです」
“脳疲労”だと認識した彼女は、瞑想することで笑顔を取り戻したという。前出・藤野教授も、瞑想の効用を認めている。
「脳疲労を治すのに瞑想は、とてもいい方法です。ただ、上手にやるのはとても難しい。誰でもいきなりできるわけではありません。瞑想は第六感を元気にする方法なので、その前の五感が活性化しないとできないのです。そのため、まずは健康的で五感が気持ちいいこと、たとえば山に登って美しい景色を見る、おいしいと感じる体にいいものを食べるといったことをしましょう」
“笑えない”苦悩も演技に生かし、迫真の怪演を見事に披露した木村。暗闇をくぐり抜けた強さこそが、幅広い役柄を演じきれる女優魂の源泉だった――。