東京郊外にある駅から歩いて3分ほど。繁華街に立つビルは、築10年弱とまだ新しく、陽光を受けてガラス張りの外観もキラキラと輝いていた。新築直後から、このビルの2階に漫談家・綾小路きみまろ(69)が事務所を構えていたのだ。しかし3月に入り、引っ越してしまったという。きみまろの知人は言う。
「いつかきみまろさんが“家賃は100万円近い”と、言っていました。彼もずいぶん気に入っているようでした。でも最近になって突然『都内に事務所を引っ越したんだ』と。『家賃も高かったしね』と、笑ってはいましたが、仕事のほうがうまくいっていないのかと心配になってしまいました。コロナの影響もいろいろあるみたいで……」
本業の漫談に加え、飲食店経営やワインの輸入販売なども手がけているきみまろにとって、新型コロナウイルスの感染拡大はダブルショックだったという。
「ライブも次々と延期を発表していますし、飲食店のお客も減っているようなんです」(前出・知人)
さらに取材を進めると、新しい事務所は、都内の一軒家にあることがわかった。
「以前、きみまろさんがフレンチレストランを開いていたのですが潰れてしまったんです。空いていたスペースを事務所として活用することになったと聞きました」(近所の住人)
さすがのきみまろもコロナの猛威にはお手上げで、引っ越さざるをえなかったのだろうか? そこで自宅で本人を直撃取材したところ――。
「100万円の家賃が払えなくなったから引っ越した? そういう話になっているの? うーん、まぁ、あそこは100万円まではしなかったけどね。でも少々家賃は高かったけど、しっかりとした建築が気に入ってはいたんです。その前に使っていた事務所は、’11年に東日本大震災が起こったときに、揺れがひどくて大変だったもので。それで震災のすぐ後に、耐震性の高いビルへ引っ越しました」
――コロナの影響で収入が減ったからではないかと心配している知人もいますが?
「確かに3月に動いたけど、家賃が払えなくなったからじゃないよ。もし100万円だったとして払えるな(笑)。そんなに心配してもらって申し訳ないけど。もともと今年の3月が更新の時期だったし、移転自体は前から準備していたしね。でも言われてみると“コロナの影響”っていうのは、あながち間違っていないかもしれないな……」
実は70歳という節目の年を目前に控えた彼は、資産の整理を始めていたのだという。きみまろが続ける。
「“身の回りの整理”というのかなぁ。まぁいい年だし、いい区切りだし、少し身軽になろうと思って。もともと借りていた場所も空いていたし、更新時期だったしで、そこへ事務所を移すことにしたの。ただね、実はちょっと前から“予感”はあったんだ」
――予感ですか?
「そうそう、どうしても2020年の東京五輪がすんなり開催されて、無事に終わるとは思えなかったんだよ。何か大きな災難が起こるような気がして……。そういう嫌な予感もあったから身軽になろうと思ったんだね。それが結果的に新型コロナウイルスの感染拡大だったわけだけど」
なんと、新型コロナウイルス襲来や、五輪延期を予見していたというのだ。そういった天性の鋭さが、彼を大人気漫談家にしたのかもしれない。
「だけどやっぱりコロナはキツイよ! 3月と4月のライブも(延期して)ゼロになっちゃった。 オレだけじゃない、芸人はみんなツラいし、世の中も厳しい、これからみんなもっと大変になるけど、耐えるしかないよね。でもオレの店で働いてくれている従業員たちは1人もクビにしない。またみんなで笑えるようになるまで頑張りますよ」
きみまろのライブが復活して“コロナうつ”を吹き飛ばしてくれる日を待つばかり。
「女性自身」2020年4月14日号 掲載