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育った場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代にはやったドラマや歌の話。同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。

 

「人の心に訴えかける手法は、現在なら動画、少し前なら画像でしたが、’80年代前半は“言葉”の力が圧倒的に強かった。そのため『おいしい生活』という、西武百貨店の広告を手がけた糸井重里さんを代表とするコピーライターが、かっこいい職業の象徴でした。林真理子さんは、女性コピーライターの草分けとして、『ルンルンを買っておうちに帰ろう』など、エッセイというジャンルを世に広めました。『ルンルン』という言葉は流行語にもなりましたよね」

 

こう語るのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(53)。

 

『ルンルンを買っておうちに帰ろう』は’82年に出版された、林真理子さんのデビュー作。このなかで《できるだけ正直にいろんなことを書こうと思ったのだが、書きすすむうちにあまりのエゲツなさにわれながら悲しくなってしまったことが何度もある》とつづる著者の、モテる女性への妬みやそねみをあけすけにしながら、女性を磨き、恋愛、仕事にも奮闘する姿が描かれたエッセイ集だ。

 

牛窪さんは、同書が当時の女性の生き方の選択肢を広げたと分析する。

 

「いまの女性は仕事という“キャリア”と、恋愛や結婚、育児などの“家庭”の両方を手にするのが当たり前の二刀流世代です。でも’80年代は、どちらかを選択する、つまり、どちらかを捨てねばならない女性が大半だった。たとえばバリキャリ路線でいくなら、土井たか子さんや、少し後の田中眞紀子さんのように、髪を振り乱し、女性らしさを犠牲にしなければ生き残れませんでした」

 

一方、専業主婦として生きていく選択をすれば、“3高(=高学歴、高収入、高身長)”を備えるような、競争率の高い男性に見初められるために、女性らしさ、かわいらしさを追求することになる。

 

そのために“聖子ちゃんカット”や、後のダブル浅野のワンレン、ソバージュをマネするのだが、どんなに頑張っても限界がある。

 

「けっきょくは“見た目”のいい人が、なんの苦労もなく、ブランドものをプレゼントされ、高級レストランに連れて行ってもらえる現実に直面します。そんな“美人ばかり、ずるい!”という、大多数の女性が思っていても、なかなか口に出せない妬みやそねみを、『ルンルンを買っておうちに帰ろう』では軽妙なタッチで代弁してくれているから、多くの共感を得られたのでしょう」

 

決して美人とはいえず、スタイルもよくないことを自覚したうえで、当時の林真理子さんは、男性に好まれる下着はどんなものがいいのかを考察したり、ブランドものを手に入れるためにバーゲンに出かけたり、と奔走している。

 

「恋愛やオシャレに必要な女性らしさ、かわいらしさを諦めず、でも仕事も充実している。そんな姿に勇気づけられた女性は多いはず。タイプは違うけれども、その野心、貪欲さは松田聖子さんと共通するのではないでしょうか」

 

現代女性の礎を築いたのは、林真理子さんなのかもしれない。

 

「女性自身」2021年2月16日号 掲載

マーケティングライター、世代・トレンド評論家

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