■父から子への教えは台本を丸暗記すること
梨園関係者はこう語る。
「花柳流の稽古場を選んだのは中車さんでしょう。歌舞伎役者が習う日本舞踊といえば、宗家藤間流や尾上流が多いのです。中車さんが所属する澤瀉屋ですと、紫派藤間流を習う方が多いのではないでしょうか。
しかし紫派を創流したのは故・藤間紫さん。中車さんからすれば、自分の家庭から父を奪った女性ですから、避けたいというのも人情かもしれません」
息子・團子が初舞台を踏んでからすでに10年近くになるが、その間に香川自身の家庭環境も激変。’16年12月に21年間連れ添った元CAの妻と離婚したのだ。
現在、香川は東京都内にある一軒家で生活し、團子は母と暮らしている。
「離婚原因の1つは、中車さんが團子さんの梨園入りにこだわりすぎて、奥さんがついていけなくなったためとも言われています。
しかし中車さんと團子さんの関係は、その歌舞伎を通じて良好です。17歳という多感な年齢にしては珍しいぐらいかもしれません。團子さんが『半沢直樹』の大和田常務や『昆虫すごいぜ!』のカマキリ先生のまねをして友人を笑わせているという話も聞いたことがあります。とにかく明るい子ですからね」
團子は“父から教わったこと”について、インタビューで次のように語っている。
《最近教わった中で特に印象に残っていることでは、台本の暗記です。相手役の部分を含め、台本をどれだけ覚え込むか……。日常でもすんなり言葉が思い出せるぐらいになれば、余裕が生まれて、感情をセリフに乗せて表現するといった他のことも考えられる、という意味だと受け取っています》(「with online」’21年9月1日)
この証言からも香川の息子にかける大きな期待が伝わってくるが、“誕生日の父子特訓”について、前出の梨園関係者はこう語る。
「この10年ほどで歌舞伎を支えてきた名優たちが次々に逝去しており、関係者たちの間でも“歌舞伎の未来”への危機感が強まっています。特に先日の中村吉右衛門さんの逝去に“大きな喪失感”を抱いたのは中車さんばかりではないのです。
私は誕生日にあえて團子さんと稽古をしていたのは、“息子の成長を通じて歌舞伎界の将来を守りたい”という中車さんの決意表明ではないかと思います」
ドラマでは日本沈没を唱えていたが、“歌舞伎沈没”はさせない、ということなのだろう。
稽古を終え、寒風の吹くなか、團子と肩を並べて歩く香川。すでに背丈は自分を追い越した息子に投げかけるまなざしは温かだった。