「内藤ルネ」の名をご存じだろうか?
いまや世界共通言語となった「Kawaii」だが、この日本独自の「カワイイ」という文化は昭和30年代、内藤ルネという、たったひとりのクリエイターによってつくられた。
雑誌『ジュニアそれいゆ』の表紙に描かれた美少女<ルネ・ガール>をはじめとし、日本で初めてパンダをキャラクター化した<ルネパンダ>、イチゴに代表されるくだものや野菜を題材にした<フルーツモチーフデザイン>など、身近なあらゆるものに“カワイイ”を見いだし、作品として発信。一世を風靡した。
しかしルネは“カワイイ”の一方で、もうひとつの世界を持っていた。
本名、内藤功(ないとう・いさお)。少年期には自身が性的マイノリティであることに気づいており、1万点以上にのぼる“ゲイアート”も残している。その感性が花開いたのは、1971年創刊、商業誌としては日本初のゲイ雑誌『薔薇族』(第二書房)だった。1984年から98年までの約15年間にわたり、『薔薇族』の表紙絵をルネが担当している。
ルネ自身の理想の男性を具現化したイラストはセクシーかつ健康的で、<ルネ・ボーイズ>と呼ばれた。少年期には家族の誰にも自分の性的指向を話せなかったルネだが、『薔薇族』では内藤ルネの名で少年画を描いた。そこにはゲイであることを隠し悩んでいる人たちへの思いがあり、のちに「少しでも世間に知られた(自分の)名前が出て、そっと隠している人たちにわずかでも心丈夫になってもらえればいいと思っているのですね」と語っている。
そんな内藤ルネの作品集『BOYS IN LOVE~恋する男たち~』が7月21日(木)、光文社から発売される。『薔薇族』表紙絵をはじめとし、男性画だけを集めたものは今回が初となる。
「“裏”内藤ルネと呼ばれ、なかなか日の目を見ることのなかった作品たちです。同性愛というだけで後ろ指をさされるような時代に、内藤ルネは堂々と自分の“あり方”を発表し、表現していました。その“あり方”とは、何者にもとらわれることのない人間の“本質”です。自分がいいと思っているものを正直にいいという、それだけのことです。ところが、それだけのことを時代は許してこなかった。“カワイイ文化”が好きなことと“カワイイ男子”が好きなことは、まったく別なことだと考えられていたのです。どちらも内藤ルネが表現する愛しいものたち=“カワイイ存在”であり、そこに発せられるメッセージに違いなどあるはずがないのに」
そう話すのは、編集者・アーティスト・キュレーターなどさまざまな顔を持つクリエイター・米原康正だ。作品集の発売に合わせて開催される内藤ルネの個展「BOYS IN LOVE/恋する男たち~それを人は薔薇族と呼んだ~」のキュレーターを務めている。
「時代の寵児として脚光を浴びた内藤ルネの眼に映った、キラキラと輝くもうひとつの世界――美しく彩色された少年や青年、ゲイ雑誌『薔薇族』に掲載された作品、ルネが思うままノートの切れはしにペンを走らせた下描きなど、さまざまな内藤ルネの本質を知ることができる貴重な機会です。
2022年、『LGBTQ』『多様性』という言葉が浸透し、“裏”内藤ルネは、じつは裏な存在ではなく、内藤ルネそのものである、と当たり前な価値観で作品を紹介できることをうれしく思います。人間の本質は色あせない――そのことに気づかされる1冊であり、個展です」
【INFORMATION】
<書誌情報>
内藤ルネ作品集『BOYS IN LOVE 恋する男たち』(光文社)は7月21日(木)発売。個展会場でも販売される。インタビューページでは、コシノジュンコ、ヒコロヒーらクリエイターが、ルネの絵の魅力について語っている。四六判ソフトカバー、160ページ(シール付き)、2,800円+税
https://www.amazon.co.jp/dp/4334953190/
<イベント情報>
内藤ルネ個展「BOYS IN LOVE/恋する男たち~それを人は薔薇族と呼んだ~」は7月21~24日の4日間、「WAG GALLERY」(東京都渋谷区神宮前4-26-28 JUNK YARD 3F/13~20時)にて開催される。作品集掲載のものを中心に 、50点以上を展示。展示作から12点をシルクスクリーンにて販売する。