住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代に夢中になった映画やドラマの話。活躍する同世代の女性と一緒に、“’90年代”を振り返ってみましょうーー。
「’95年9月、日本経済新聞で渡辺淳一さんの小説『失楽園』の連載が始まりました。性描写もある不倫を題材にした小説が、全国紙に掲載されたことが話題となり、サラリーマンたちは通勤時間に食い入るように読んでいました」
そう話すのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(54)。
“実際に自分にはできないけれど、願望はある”不倫をテーマにしたテレビドラマは、’80年代から人気コンテンツだった。
「『くれない族の反乱』(’84年・TBS系)は、単身赴任の夫がかまって“くれない”ことから、主婦がパート先の男性と恋に落ちてしまうラブストーリー。“金妻”の愛称で親しまれた『金曜日の妻たちへ』(’83年・TBS系)は、郊外の新興住宅地に住む夫婦による不倫の物語。どちらの作品も、働き詰めで家庭をかえりみない夫と、専業主婦の妻との間に心のすれ違いが生じ、不倫に発展しました」
■不倫が男のエゴから大人の純愛に昇華した
バブル時代、社会的地位の高い男性は、その成功のトロフィーとして若く美しい不倫相手を求める傾向も強かった。
だが、’90年代初頭にバブルが崩壊すると状況は一変。経済状況の悪化や会社の経営不振を実感することが増えていった。
「“エリート街道を突っ走っている”と思い込んでいたら突然リストラの危機に見舞われるなど、自信を失った中年男性が多くいました。だからこそ、出版社で働く主人公が左遷され、そこで出会った女性と不倫関係になる姿が描かれた同作品は、わが身に置き換えやすかったのでしょう。“自分の人生はなんだったんだろう”と仕事に限界を感じた男性の願望が、“もう一度、命を燃やす恋愛がしたい”という方向に向かったのかもしれません」
女性にとっても、『失楽園』で描かれた邪念のない愛は、不倫にもかかわらず共感を呼んだ。
「’97年5月に公開された映画版では役所広司さんと黒木瞳さんが好演、観客動員100万人を超えるヒット作に。ドラマ版(’97年・日本テレビ系)では、主演を務めた古谷一行さんの演技が“切ない”などと主婦の心に刺さり、最高視聴率は27.3%を記録。濡れ場もあったドラマですが、川島なお美さんが見せた裸体は、シルエットだけでも妖艶で美しく、多くの女性が見入ってしまったことでしょう」
2人で心中を図る結末も衝撃的。
「不倫を美しく儚い“純愛”に昇華させたことが、作品の魅力だったのではないでしょうか」
【PROFILE】
牛窪恵
’68年、東京都生まれ。世代・トレンド評論家でマーケティングライターとして『ホンマでっか!?TV』フジテレビ系)など多数の番組で活躍