山口真由 闇深い中学時代の救いは「三井寿 諦めの悪い男」
画像を見る 中学1年生のころの山口真由さん

 

■登場人物たちの成長していく姿が感動的な『スラムダンク』

 

学校では、まったく自分を出せず、まわりの目ばかりが気になっていた。

 

「休みの日は、キャスケットやかわいいTシャツを着て出かけたいのですが、クラスの男子に見られようものなら、翌日の学校で『昨日の山口、ウケる』とかからかわれるから着られませんでした。中学時代にはやったルーズソックスも、イケてるコたちがはいているような長いルーズソックスは気が引けるので、それよりも短いもの。トイレに行くときも、誰と一緒に行けばいいのかばかり考えてしまう。順番に仲間はずれにされるのでビクビクしていたし、『真由、うざいから無視しよう』という友達の手紙のやりとりを見ては落ち込む。そんな自分も嫌で、つねに“自分を変えたい”と思っていました」

 

『スラムダンク』に出合ったのは、そのころだ。

 

「クラスでも人気だったので、どうやら『スラムダンク』というマンガが面白いらしいと知って、アニメから見始めました。すぐに原作が読みたくなったのですが、『少年ジャンプ』はなかなか買う勇気が……。単行本が出るたびに、妹とお小遣いを200円ずつ出し合って買っていました」

 

物語はバスケ初心者の主人公・桜木花道の成長を軸に描かれているが、チームの仲間など、魅力的なキャラクターに引き込まれた。

 

「流川楓はモテる見た目でバスケもうまいけれども、自己中心的で味方にパスを出さない欠点がある。作品に出てくるキャラクターはみんな、スーパーマンではなく何かしら欠点やコンプレックスを持っていました。そんな完璧ではない仲間たちが、お互いを補いながら、一歩ずつ成長していく姿が感動的。等身大のキャラがたくさん登場するし、誰かしら自己投影できるキャラが見つかるので、これほど支持された作品になったのだと思います」

 

なかでも目が離せなかったのは三井寿。センス抜群の元中学MVPだったが、湘北高校に入学後まもなく負傷、同級生でライバルの赤木剛憲の活躍を前に挫折して、不良グループとつるむように。

 

「バスケ部をメチャクチャにしようとしたこともあったけど、仲間に迎え入れられ選手として復帰しました。でも、2年もブランクがあったせいで体力がないんです。それで試合中、息切れして体が動かず、朦朧としてしまうことも。もう腕も上がらないはずなのに、何度も打ち慣れたシュートは美しい弧を描いてゴールへと吸い込まれ、『この音が…オレを甦らせる 何度でもよ』とつぶやく名シーンは、強く印象に残っています」

 

もがきながら本来の自分を取り戻そうとしている三井の姿を見て、“自分を変えたい”と思っていた山口さんは、大きな決断をした。

 

「誰も私のことを知らない場所に行かないと、自分を変えることはできないと思って、東京の高校を受験することにしたんです」

 

祖母の家に世話になり、親元を離れた高校生活をスタートさせた。新しい環境に身を置いたことで、徐々に自分を変えられたという。

 

「北海道ではバスケ部のマネージャーなんておそれ多くてなれませんでしたが、東京の学校ではサッカー部のマネージャーに。大学進学、就職とその後もチャレンジは続きましたが、高校で上京したときほど、大きなものはありません。その最初の一歩を後押ししてくれたのが『スラムダンク』の三井寿なんです」

 

【PROFILE】

山口真由

’83年、北海道生まれ。東京の高校を卒業後、東京大学に進学。法学部卒業後は財務省、弁護士事務所勤務などを経て、現在は信州大学の特任教授。近著に『世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史』、『「ふつうの家族」にさようなら』などがある

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