■強固な、“正しい”とされることを信じないスタンス
ワクチン接種の話題も下火になってきた今日この頃。それでもなお、有名人が亡くなる度に「ワクチンを打っていた」と、訃報とワクチン接種を結びつける人が後を絶たないのはなぜなのだろうか? 臨床心理学の専門家で筑波大学の原田隆之教授に話を聞いた(以下、カッコ内は全て原田教授)。
まず、原田教授によると、ワクチンと死を結びつける大きな要因は”確証バイアス”という心理が影響しているという。
「“確証バイアス”というものがあって、それによって思い込んだものにすぐ因果関係を見つけて飛びついてしまうのです。本当なら人が亡くなる原因は色々ありますが、“ワクチンは危ない。ワクチンで人が死ぬんだ”という“確証バイアス”をもっていると、もう他の原因は一切考えないで、“人が死ぬ=ワクチン”といった風に、直接ワクチンと結びつけてしまうのです。ある種、“思考の手抜き”をしているともいえます」
そもそもなぜ、このような投稿をする人たちは新型コロナのワクチンにここまで懐疑的なのだろうか。
「どこの国でもどんな時代でも、そうした考えの方は一定数います。たとえば、現代医療に不信感を持っている人は、ワクチンに極度の批判をすることがあるし、自然派志向で添加物などを極端に嫌ったりする人は、化学調味料を使った料理研究家を批判したりします。このような反科学的な思想を根底に持つ人たちが、コロナのワクチンに対して“危険だ、危ない”っていう考え方を強めていっているんだと思います」
原田教授によると、このような反科学的・反権力的な思想は陰謀論に結びつきやすいのだという。今回の新型コロナのワクチンについても、実は増えすぎた人口の削減が目的であり体に悪いというものや、製薬会社はワクチンによって病気を引き起こし新たな薬を売ることを目的としている、などの陰謀論が相次いで生じた。
また、コロナワクチンに対し懐疑的なスタンスの人たちは、権威や一般的に“正しい”とされる常識を疑ってかかるケースが多く見られる。何事にもすぐに飛びつかず、真に受けないでその真偽を検討するという態度自体は、重要な態度であると言えるが、その一方で科学的な根拠を欠いたり、出所の疑わしい情報を頼りにすることは危険性が潜んでいる。
「反ワクチンの思想を持つ人たちには、国が発信する情報、あるいは代表的なメディアなど“権威ある機関”からの情報は“自分たちを惑わす嘘”なんだという確信みたいなものがあって、“みんな騙されているんだ”と思っている。そして、騙されていない自分たちは、みんなが知らないことに気づいているから“より優れているんだ”という優越感を持つことができるんです」
そして、公的なリリースやマスメディアからの情報を信じない代わりに、SNSを主要な情報源としているという。
「私がワクチンに関して論文を書くためにデータを取った際に、こうした人々は反科学的な、あるいは反権威的な傾向が非常に強くて、情報の取得についても大手のメディアよりも、YouTubeやSNSに頼る傾向が強いという結果が出ました。また、政府や政治家に対する信頼感も低いことがわかりました」
さらにSNSを利用することで、自分と同じような意見の人達だけで共鳴しあい、ますます自分たちこそが正しいという確信を強めていくのだという。