■『コナン』や『鬼滅』の人気は映画業界の将来的な発展に
そのいっぽうで、上映回数が多いことによるデメリットも。ヒナタカさんは「今回の『鬼滅』の上映開始により、“他の映画がほぼ1日1回のみになるほど上映回数を圧迫している”、特に、“IMAX上映がほぼほぼ『鬼滅』独占となった”ことに、嘆きの声があがるのも当然でしょう」と指摘し、こう続ける。
「例えば、IMAX専用カメラで撮影された『F1(R)/エフワン』(6月27日公開)は『IMAXで観るべき』の声が多かったのですが、『鬼滅』の上映開始と共にほぼほぼIMAXの上映が終了しました。1週前に上映開始したばかりの『スーパーマン』もIMAXの上映がなくなったり、あったとしても1回のみになっています。もちろん、それでも『鬼滅』のIMAX上映は予約時点で完全な満席が続出しているため、やはり商業上では妥当な采配とは言えるのですが……。
また、『無限列車編』の時は、コロナ禍での公開であり、ビッグタイトル(特にハリウッド大作)がほとんど供給されていないタイミングだからこそ、時刻表のようなスケジュールも特殊な事例として受け入れられていた印象があります。しかし、その後にも『劇場版 呪術廻戦 0』『すずめの戸締まり』『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』などでも同様のスケジュールが組まれたことで、それらと同時期に公開されていた他の映画を支持する人が、“さすがにやりすぎじゃないか”と反感を覚えるようになってしまったのだと思います」
とはいえ、人気アニメの作品に観客が殺到することは、映画業界にとって将来的にプラスとなる可能性が高いという。
「’25年2月以前の映画館利用率(1年間に映画館で映画を観た割合)は全体の49%(出典:株式会社サンライズ社の独自調査)でした。そのなかで『年1~2回』映画館を利用している人が最も多く、23.8%だったそうです。そうした“ライト層”は、’25年に映画館で鑑賞する作品を『コナン』と『鬼滅』で“消化”してしまうという見方もできそうですが、個人的には悲観することもないと思います。
なぜなら、『コナン』や『鬼滅』が多くの人を映画館に足を運ばせてくれたのは事実であり、その上映前に他の映画の予告編もたくさん観ていることは確定的で、これからはもっと多くの映画を劇場で観る映画ファンになる可能性もあるからです。
また、現代の子どもや若者にとって、タブレットやスマホで観るYouTubeやショート動画が普段観ている映像であり、劇場に足を運ぶことはおろか、映画そのものをほとんど観ていなかった可能性もあります。そんな現代で『コナン』や『鬼滅』は、大画面や優れた音響はもとより、『みんなで一緒に観る体験』がある映画館という場所の素晴らしさを伝えてくれたともいえるはずです。
やはり、『鬼滅』の上映スケジュールに複雑な感情を覚えたとしても、そこに文句を言っても何も始まりません。他の映画の魅力を誰かに伝えたり、自分もおすすめされた映画を観に行くなどしてこそ、映画業界はもっと盛り上がるでしょう」
“鬼滅ブーム”の再来を予感させる上映スケジュールは、映画業界の発展には欠かせない仕掛けのようだ。
画像ページ >【写真あり】一部劇場では、鬼殺隊士12名が描かれた座席カバーで「シートジャック」も(他1枚)
